刑法

【刑法】 因果関係(応用編)

(この記事はプロモーションを含みます。)

こんにちは

今回は前回の続きで、因果関係の話を詳しく検討したいと思います。

前回の記事:【刑法】 因果関係(基本)

とりあえず、前回の復習をすると、刑法上の犯罪が成立するためには、

構成要件に該当する必要がある。

ということは大丈夫でしょうか。

そして、その構成要件の一つとして、行為によって結果が生じたと言えるのかという因果関係もありますよということでした。

ナイフで刺したという行為と死亡という結果の間に、原因と結果という関係が必要となるのです。

そして現在の通説は、因果関係の存否は行為の有する危険性が結果へと現実化したかによって決せられる、という立場でした。 これを危険の現実化説と呼びます。

ここまでは前回やりましたね。

今回は、実際にどのような事件で因果関係が問題となったのか検討します。



判例を見る前に、危険の現実化説の具体的な判断枠組みを示したいと思います。

危険の現実化説によると

因果関係の存否は行為の有する危険性が結果へと現実化したかによって決せられる

ことになるのですが、では行為の危険性が結果に実現したというのはどう判断するのでしょうか。

上記の規範は当然のことを言っているだけのように見えます。つまり、より具体的な判断枠組みを示さないと、このままでは曖昧漠然とした判断しかできません。

そこで、具体的に考慮する要素を学者の方々が判例を見て示しています。

有力に唱えられているものとして

①行為自体の危険性
②介在事情の通常性
③介在事情の結果への寄与度

の3つの要素を総合的に考慮して判断するというものがあります。

つまり、行為者の行為が高度の危険性を持っていればそれだけ因果関係が認められやすくなるし、介在事情が普通に起こりうる程度のものであれば因果関係が認められやすくなるし、介在事情がそれほど重大なものでなく影響力が弱ければ因果関係が認められやすくなるのです。

正直この考慮要素を検討すれば試験ではとりあえずそこそこの答案にはなると思います。

具体例で確かめて見ましょう。

【ケース1】
AがBの足ををナイフで1回刺しました。救急車で運ばれる途中事故を起こしてBさんは死亡しました。
病院までたどり着いて治療すれば治る可能性はあった程度の怪我でした。

このような事例を先ほどの考慮要素で当てはめて考えると

①ナイフで人を刺す行為は非常に危険な行為です。ただし足を1回刺す程度であれば死亡結果が発生するほどの危険性はそれほどないでしょう。
→危険性については 中 くらいかなと
②救急車が事故を起こすという介在事情については、事故はいかなる場合でも起こりうるのですが、そこまで頻繁に起こるものというわけではありません。救急車で運ぶ途中に事故を起こすことが普通かと言われればそうではないでしょう。
→介在事情の通常性は 小 です。
③ナイフによる怪我は治療すれば治る可能性があるし、足を刺しただけなのでそこまで重篤なものではないでしょう。一方で、救急車が事故したことで病院で治療することができなくなってしまっており、大変な影響を及ぼしたものと言えます。
→介在事情の寄与度は 大 でしょう。

このようなことを総合的に判断すると、最初のナイフで刺す行為にはそこまで影響力はなかったものと言えますので、ナイフで刺す行為と死亡結果の間の因果関係は否定するべきでしょう。

したがって、ケース1の事例では、Aの行為は殺人罪とならず、傷害罪にとどまることになります。

基本的には因果関係はこのように検討すれば解決でくると思いますし、試験でもこのようなことを論述すれば足りるでしょう。

また、判例を検討していくつかの類型に分けて考える見解もあります。
むしろこちらの方が事案類型別に丁寧な判断ができるので望ましいと思います。

しかし、答案の書き方が悩ましいし、事案把握がめんどくさいという負担もありますので、上記の考慮要素3つにしたがって因果関係の存否を検討するやり方を、面倒なことが嫌いなあなたにはオススメします(笑)

上記の判断枠組みも有名な学者が唱えているので問題なく使うことができますので安心してください。

by カエレバ

というわけで、ここまで危険の現実化において考慮する要素を学習しましたが、次に判例を見て具体的に考えていきたいと思います。

判例を眺めてみると、因果関係の事例はいくつかの類型に分かれていることがわかります。

なので、今回は類型別に分けて検討したいと思います。
※先ほども言いましたが、事案類型ごとに枠組みを変えて判断する方法もあります。しかし、類型整理が面倒なので、上記3要素を考慮して判断するやり方で考えたいと思います。
事案類型ごとに考える見解もおおよそ考慮する内容は同一で、類型ごとに必要ではない要素が出てきたりするだけなので、両者にそこまで大きな違いはないと思います。気になる方は、いろんな教科書の因果関係の部分のみを読み比べてみることをお勧めします。

(1)ある行為をした後に、さらに行為者が別の行為をした場合

この場合は、行為後に行為者の別の行為が介在したときに、最初の行為によって結果が生じたと言えるのかという問題となります。

例えば実際に起きた事例ではこのようなものがあります。

【判例1】砂末吸引事件 (大判大12.4.30)
被告人が被害者の首を縄で絞めた結果死んだものと思い海岸に運びそのまま海岸に放置した結果、砂を吸引して窒息死してしまったという事例

さて、この場合に首を絞める行為と窒息死の間に因果関係が認められるでしょうか。

首を絞めた後 窒息死するまでに、被告人の海岸に放置するという行為が介在しているために問題となるのです。

危険の現実化説によると
①行為自体の危険性
②介在事情の通常性
③介在事情の結果への寄与度

を総合的に考慮して、行為の危険性が結果へと現実化したか否かを判断するのでした。

それではこの判断枠組みで考えると、
①首を縄で締めるのは窒息死が生じる危険性の高い行為でしょう。
②被告人が死体を他の場所に移して放置するということはそこまで異常なことではありません。
③砂を吸引したことによって死亡しているので介在事情自体の影響は大きいのですが、被害者は被告人の行為によってすでに意識がない状態で動けなかったのですから、それを考えると介在事情自体に大きな寄与度を認めることはできません。

したがって、上記の事情を総合的に考慮すると因果関係は認められるでしょう。

判例もこの事案において、因果関係を肯定しています。

【判例2】熊撃ち事件(最決昭53.3.22)
被害者を熊と誤解して銃で撃ってしまい被害者に怪我を与えた際、被害者がもう助からないと思い早く死なせてやろうとしてもう一発銃を撃ったという事例

第一行為はワザと被害者を撃っているわけではないので故意がなく、殺人罪にはできません。しかし、因果関係があれば業務上過失致死罪にはなります。
第二行為は 故意もあり殺人罪にはできそうですが、第一行為に業務上過失致死罪を成立させると、両方で死亡結果を評価しているので、死の二重評価になり問題があるのです。
しかし今回はあくまで因果関係の問題として考えましょう。
死の二重評価の点は今回は触れないでおこうと思います。

さて、この事例で、第一行為と死亡の間に因果関係が認められるのでしょうか。

①行為の危険性は、銃で撃つという行為なので、当然、死の危険性の高い行為です。
②早く死なせてやろうと苦しむ被害者にもう一発発砲する行為は普通の行動とは言えませんが、そこまで異常であるとは言えないので、この点についてはビミョーなところです。
③第二行為は死を決定づけたものなのですが、そもそも第一行為の時点で重傷を負わせていますのでそこまでの影響力はないと言えるでしょう。

したがって、因果関係を肯定してもいいと思われます。

判例も因果関係を認めた前提の判断をしていますので、 肯定の立場であると言えます。

(2)行為の後に被害者が何らかの行為をした場合

次に、被害者の行為が介在したようなケースを検討しましょう。

【判例3】高速道路侵入事件(最決平15.7.16)
被告人は他5名と共に被害者を公園及びマンション内で激しく暴行したところ、被害者が隙を見て逃げ出し高速道路に侵入して、高速道路内で車に轢かれて死亡したという事例

この事例は直接の原因が車にはねられたことにあるため、被告人らの暴行によって死亡したと言えるのかが問題となるのです。因果関係が認められると傷害致死罪が成立します。

①まず、被告人らの行為は長時間にわたり執拗に暴行を加えるものであり、このように大人数で激しく暴行を加えることはそれ自体非常に危険であり、被害者が逃げ出して高速道路に侵入するという行為をさせる危険性も十分認められます。
②また、激しく暴行を加えられるとその恐怖心から咄嗟に高速道路に侵入してしまうような精神状態になってしまうことはそこまで異常なことではないでしょう。
③もっとも、高速道路で車に轢かれたことが直接の原因ですので、介在事情の影響は大きいと言えます。

このような事情を考慮すると、被害者自身の介在行為には死亡結果に対して強い寄与度が認められるものの、それも被告人の非常に危険な暴行行為によって誘発された行為と言えるため、結論としては因果関係を認めることが妥当になると思われます。

判例もこの事案で因果関係を認めています。

このケースは非常に微妙なところだと思われますが、上記3要素を総合的に考慮して判断すると因果関係を認めることもそこまでおかしい判断であるとは言えないでしょう。

【判例4】夜間潜水事件(最決平4.12.17)
潜水の指導者である被告人と共に夜間潜水をしていた受講生が潜水中にどこかに行き、被告人は見失った受講生を探すために潜水初心者の被害者から離れたところ、被害者が不適切な行動をとったことによって溺死してしまったという事例

この事例では、被告人が被害者を残して離れるという過失行為 と溺死という結果の間に被害者自身の不適切な行動が介在している事案です。

①夜間潜水中で周囲がはっきりしないのに、潜水初心者の被害者を残して離れる行為は、極めて危険性の高い行為であると考えられるでしょう。
②潜水初心者の受講生から指導者が離れると、不安や恐怖心から適切な行動を取れないのは自然なことだと言えるでしょう。
③潜水中の 不適切な行為自体が溺死という結果を招いているが、それも被告人の行為が誘発したものと言えるし、溺死への寄与度も低いとは言えないが大きくはないでしょう。

これらのことから、潜水初心者の被害者のそばを離れて、被害者の不適切な行為を誘発したものと評価できるため、因果関係を肯定することができると思われます。

実際、裁判所の判断も因果関係を認めるというものでした。

(3)行為の後に第三者が何らかの行為をした場合

この類型は、行為者の行為後に第三者の行為が介在した場合です。

判例5】米兵轢き逃げ事件(最決昭42.10.24)
被告人が車を運転していたところ、被害者を引いてしまい、被害者はその車の屋根に跳ね上げられた。それに気づいた同乗者が被害者を屋根から引きずり下ろして転落させた結果被害者が死亡してしまったという事例
なお、被害者の死亡原因が車で轢かれたことから生じたのか、同乗者が転落させたことによって生じたのかは不明であった。

この事例ではまず車で轢くという先行行為があり、その後に同乗者の転落させるという行為が介在したのであるが、先行行為に因果関係が認められるか。

①先行行為については、車で轢くというそれ自体は危険性が高いと言えるでしょう。
②しかし、同乗者が被害者を車の上から転落させるという行為は通常起こりうるものとは認められないでしょう。
③そして、被害者の死亡原因が車で轢かれたことから生じたのか、同乗者が転落させたことによって生じたのかは不明であったことから、同乗者の行為は影響力が大きいものであったかどうか判明しない。しかし、刑法上には疑わしきは被告人の利益にという原則が存在するので、この場合は介在事情の寄与度が大きかったということを前提に評価されるだろう。

これらのことを総合的に考えると、因果関係は否定されるものと考えられます。

もっとも、本件はかなり微妙な事案であり、被害者の死亡原因が車で轢かれたことから生じたのか、同乗者が転落させたことによって生じたのかは不明であったという特殊な事情があったため、疑わしきは被告人の利益に、という観点から否定させるのです。

判例も因果関係を否定しているのですが、このような点に基づいて否定したものと考えられます。

さて、このような判例をいくつか事案類型別に検討しましたが、結局は最初に示した判断枠組みに従って検討すれば、自然と答えが導かれると分かって頂けたのではないでしょうか。

もちろん悩ましい事案もあるとは思いますが、上記の基準に従って考えれば、そこまで大きくずれることはないと思います。

最後に、本ブログで紹介した因果関係の判断枠組みを論証形式でまとめて終わりにしたいと思います。

犯罪の成立のためには行為と結果の間に因果関係が必要であるところ、因果関係の有無は、行為の有する危険性が結果へと現実化したか否かによって決せられる。
そして、その判断は、①行為者の行為の危険性、②介在事情の通常性、③介在事情の寄与度を総合的に考慮して判断する。
→あてはめ



ぜひ学部試験やロー入試等に役立ててください。

いつか司法試験の問題などを上記の基準で解いてみたいと思いますので楽しみにしてください。

途中で触れた、事案類型を細かく分けて、それに応じた考え方をする見解や危険の現実化説以外の学説についてもいつか書きます。

それでは長々と読んでいただいてありがとうございます。