【重要度】★★★☆☆

こんにちは


今回は、刑法の試験でしばしば出題される、正当防衛の論点の一つ、「対物防衛」の論点について軽く解説とともに、事例問題ではどのように解答していけばいいのかという点について書いていきたいと思います。

是非最後まで読んで参考にしてください。 


対物防衛とは


まず、そもそも「対物防衛」とは正当防衛の「急迫不正の侵害」という要件に関わるものです。


もっと詳細にいうと、対物防衛とは、正当防衛における急迫不正の要件のうち、「不正」な侵害と言えるかどうかという点が問題となるものなのです。


事例を挙げて説明します。



【事例1

Aさんが散歩していたら、反対から犬を散歩させているBさんが近づいてきました。するとBさんの犬がBさんのリードを振り払ってAさんに襲いかかってきました。Aさんは犬に噛まれないように、持っていた杖で犬を叩いてなんとか怪我をせずにすみました。しかし、Bさんの犬はこれによって酷く怪我を負ってしまいました。



さて、このようなケースでAさんには犯罪が成立してしまうのでしょうか。


ぱっと見た限りではAさんは犬に噛まれないようにしょうがなく防衛行為に及んでいるのだから、正当防衛が成立しそうにも思えます。


しかし、そもそも正当防衛とは「不正」な侵害に対する防衛行為であるところ、犬に噛まれそうになったということが、はたして、「不正」な侵害にあたるのでしょうか


このように、物や動物からの侵害が正当防衛における「不正性」の要件を満たすのかという形で問われるのが対物防衛という論点です。


対物防衛の事例で正当防衛が成立しうるか


対物防衛のケースで正当防衛が成立するのかについては、肯定説否定説が存在します。


まずは否定説から見ていくと、否定説は主に条文の文言を「急迫不正の侵害」行為というように捉えているようで、このように解すると侵害は人による「行為」でなければならず、動物が襲ってくるというのは行為にはあたらない。


したがって、正当防衛の要件を満たさないという結論となります。


異なる観点から説明すると、ここでいう「不正」とは刑法上「違法」であることをいうところ、犬が人を襲って怪我をさせても「違法」とはならないので、「不正」な侵害が存在しないともいえますね。


いずれにせよ、動物の行為は「不正の侵害」とは言えないということが核となっています。


これに対して、肯定説は「不正の侵害」が否定説の言うように解される必要はなく、物や動物による法益侵害も「不正な侵害」にあたるといえると言います。


また、実質的な理由として、人による侵害行為と同様の結果を引き起こしかねない侵害に対して正当防衛が成立せず、緊急避難の厳しい要件を満たさないといけないのは均衡を欠くのではないかともいえますね。


このように、対物防衛の場面で正当防衛が成立するのかという点については対立があるのですが、個人的には正当防衛の成立は否定してもいいと思います。


やはり、「不正」な侵害という文言は「違法」であることを意味していると解するのが素直であると思いますし、肯定してしまうとあらゆる場面で正当防衛が適用されてしまい、緊急避難が適用されるのが普通ではないかと思われる場面でさえ正当防衛になってしまいかねません。


いろんな考え方が考えられると思いますが、試験的には否定説の立場で書いていくのがいいと思います。


対物防衛の処理の仕方

さて否定説からは対物防衛の事例で正当防衛を使うことはできません。

その上で対物防衛の論点を解決するには
2つのパターンが考えられます。


一つ目は、①他の行為を侵害行為として正当防衛を成立させる。


もう一つは、②緊急避難の成立です。


まず一つ目については、上記の事例でいうと、そもそも犬に対する防衛行為と考えるのではなく、犬が他人を襲わないように管理しないといけないBさんの過失行為に対する正当防衛と考えるのです。


そうすると、Bさんの過失行為は「不正」な侵害と言えるため、他の要件も満たすことができれば正当防衛を成立させることができ、器物損壊罪の違法性が阻却されることとなります。


このように考えるとそもそも人に対する防衛だから、「対物防衛」とはいえないかもしれませんが、ここではパッと見て動物や物に対して防衛行為をしたと思えるような事案を「対物防衛」としてその思考プロセスを説明しています。


二つ目として、犬からの侵害に対する緊急避難の成立も考えられます。


緊急避難に関しては、不正なものに対しても成立させることができます


たとえば、犬に襲われたから隣にいる人を突き飛ばして逃げたら、その人が怪我をしてしまった場合には、隣にいた人は侵害行為も何もしていないので正当防衛は不成立となりますが、緊急避難であれば成立する可能性があるのです。


そのため、最初にあげた事例でも、Aさんは犬に怪我をさせてしまいましたが、これは犬から危害を加えられるのを避けるために行ったのですから、緊急避難が成立する可能性があります。


事例問題の解答プロセス


このように対物防衛の場面では、①人の行為に対する防衛として構成するか、②緊急避難として構成するという方法がありえます。


なので、試験ではこれらについて論述していけばいいこととなります。


  1. 犬からの侵害は「不正」ではないからこれに対して正当防衛は成立しないか(否定)

      ⬇︎ 

  1. その飼い主の故意・過失行為があればそれに対する正当防衛の成否を検討する

      ⬇︎

  1. 飼い主の故意・過失がない場合には緊急避難の成否を検討する


試験ではこのようなプロセスで考えていくといいと思います。


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