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こんにちは

今回は、正当防衛の成立要件のひとつである急迫不正の侵害について解説したいと思います。

司法試験でも重要な分野ですし、最近最高裁判例が出たこともありかなり注目の論点になります。

なるべくわかりやすく解説していきますので、是非参考にしてください。

急迫性 と 不正性 

刑法36(正当防衛)

第三十六条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。 


さて、条文から正当防衛の成立要件として急迫不正の侵害が要求されています。


そして、急迫不正の侵害は主に二つの要素から出来ています。


「急迫性」「不正性」です。


今回は急迫不正の侵害の要件のうち、特に前者の急迫性の点について詳述していきたいと思います。

不正性はこちらからどうぞ→【刑法】重要論点解説 対物防衛の処理の方法について


急迫性とは

まず、急迫性の定義について確認すると、判例は「現に法益侵害が存在している、または、侵害の危険が間近に押し迫っている」場合には急迫性が認められると定義しています。


例えば、監禁中のように今現在侵害されている状況か、今にも殴られて自分が怪我をしてしまいそうな時が典型例ですね。


基本的にはこの定義に当てはまるのかを、時間的場所的近接性の観点から判断すればいいのです。


つまり、侵害があまりにも遠い将来のことであれば急迫性がないとなりますが、ある程度予見できるくらいの日時のことであれば急迫性は認められると判断しても良いでしょう。


積極的加害意思を有する場合

基本は上記のような考え方になりますが、ちょっと難しいのは防衛行為者が侵害を予期している、あるいはさらに進んで積極的加害意思を有している、つまり、防衛状況に乗じて相手を加害してやろうと思っていた場合です。


正当防衛は、公的救済を求める余裕がないという緊急状態だから違法性が阻却されることとなるのです。


しかし、積極的加害意思を持って防衛行為をすることが果たして妥当なことなのかという点で問題となるのです。


この点については、判例は以下のように考えています。


【最判昭52.7.21刑集31巻4号747頁】

当然又はほとんど確実に侵害が予期されたとしても、そのことからただちに侵害の急迫性が失われるわけではない」もっとも、侵害の急迫性の趣旨から考えて、「単に予期された侵害を避けなかったというにとどまらず、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、もはや侵害の急迫性の要件を満たさない
 


判例はこのように、ただ単に侵害行為がなされると予期していただけなら、急迫性の要件を欠くことにはならない。しかし、侵害行為を予期していたことに加えて、それに乗じて相手に危害を加えてやろうという意思があったのなら、もはや急迫性があったとはいえないと判断しているのです。


この判例の考え方をまとめると、侵害行為の予期があるケースで急迫性が否定されるのは、


侵害行為を予期している ➕ 積極的に加害行為をする意思を有している


場合だと読めます。


急迫性の最新判例について

少し前までは試験的にも上記のような理解で十分でした。


しかし、最近の判例で最高裁は上記のような考え方ではないのではないかという疑問が湧いて出たのです。


以下に判例を引用します。


【最判平29.4.26刑集71巻4号275頁】

刑法36条は、急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに、侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容したものである。したがって、行為者が侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合、侵害の急迫生の要件については、侵害を予期していたことから、ただちにこれが失われると解すべきではなく、対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討するべきである。具体的には、事案に応じ、行為者と相手方との従前の関係、予期された侵害の内容、侵害の予期の程度、侵害回避の容易性、侵害場所に出向く必要性、侵害場所にとどまる相当性、対抗行為の準備の状況(特に、狂気の準備の有無や準備した凶器の性状等)、実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同、行為者が侵害に臨んだ状況およびその際の意思内容等を考慮し、行為者がその機会を利用し積極的に相手方に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときなど、前記のような刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には、侵害の急迫性の要件を満たさない


(長いですね(笑)ごめんなさい、、、、、、)


判例のこの判示を読むと、急迫性が否定されるにはなにも積極的加害意思を有していることは必須ではないと考えられるのです。


つまり、急迫性が否定される場合は


侵害行為を予期している α


となり、αの一例が積極的加害意思を有している場合である。


そして、αは積極的加害意思を有している場合だけではなく、他にも判例の挙げている要素を考慮した上で、急迫性を否定してもいいような状況である場合も含まれるということになると考えられるのです。


どのように判断するべきなのかは、具体的事実関係に依りますが、判例の挙げている考慮要素をベースに当てはめて、急迫性を認めてもいいような緊急状態なのかという観点から判断すると良いでしょう。


急迫性のまとめ

基本 時間的場所的近接性

侵害を予期していた場合  侵害の予期 ➕ α

α=行為者がその機会を利用し積極的に相手方に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときなど、刑法36条の趣旨に照らして許容されるものとはいえない場合)

考慮要素(1)行為者と相手方との従前の関係
      (2)
予期された侵害の内容
      (3)
侵害の予期の程度
      (4)
侵害回避の容易性
      (5)
侵害場所に出向く必要性
      (6)
侵害場所にとどまる相当性
      (7)
対抗行為の準備の状況(特に、狂気の準備の有無や準備した凶器の性状等)
      (8)
実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同
      (9)
行為者が侵害に臨んだ状況およびその際の意思内容

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