『若手弁護士のための初動対応の実務』の評価と特徴~民事弁護編との違いも解説~
(この記事はプロモーションを含みます。)
今回は、弁護士が法律相談や受任直後の対応を考えるための実務本、『新版 若手弁護士のための初動対応の実務』について、特徴や評価をまとめて書評を書いていきたいと思います。
弁護士になって初めて扱う分野の相談を受けることになったとき、「何から聞けばよいのか」「確認しておくべきことに漏れがないか」と迷うことが少なくありません。
条文や裁判例を調べることと、限られた相談時間の中で事情を整理し、今後の選択肢を説明することは、別の準備が必要となります。
そこで今回注目したいのが、若手弁護士が法律相談の前に確認事項を整理するために有益となる実務本『新版 若手弁護士のための初動対応の実務』です。
この記事では、本書の良いところとイマイチなところに加え、同シリーズの『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』との違いも紹介します。
ぜひ最後まで読んで参考にしていただければ幸いです。
『若手弁護士のための初動対応の実務』の情報
今回紹介するのは、日本能率協会マネジメントセンターから出版されている『新版 若手弁護士のための初動対応の実務』です。
書名:新版 若手弁護士のための初動対応の実務
著者:長瀨佑志・長瀨威志・母壁明日香
出版社:日本能率協会マネジメントセンター
出版年月日:2017年12月16日
判型・ページ数:A5判・504ページ
定価:本体3,200円+税
2017年刊行の書籍ではありますが、今でもなお、新規登録弁護士や若手弁護士の多くが自身の相談力を高めるための書籍として活用されています。
弁護士になったばかりでまだ法律相談に慣れていない方、法律相談に不安を抱えている若手弁護士の方は、本書が役に立つと思いますので、一度、本書を見てみても良いと思います。
『若手弁護士のための初動対応の実務』の特徴と評価
『新版 若手弁護士のための初動対応の実務』の特徴や評価をまとめていきます。
分野ごとに、初動対応の出発点を整理した実務本
『新版 若手弁護士のための初動対応の実務』は、タイトルの通り、若手弁護士を対象として、相談、受任という初動対応の際の実務に関して解説している書籍です。
民事弁護総論に加え、交通事故、離婚、相続、債務整理、労働、企業法務を扱う構成となっています。
相談・受任の段階で検討すべき事項を、分野ごとに確認できる点に特徴があります。
この構成を踏まえると、本書は、特定の論点の答えを探すためだけでなく、「そもそも、この相談では何を検討すればよいのか」を整理するために読むと、役割がはっきりすると思います。
相談者の話を一つの争点だけに当てはめて考えるのではなく、まず全体を見て、追加で聞くことや調べることを決める。そのための参考として本書を位置付けると、分野別の詳しい実務書との使い分けもしやすくなります。
また、企業法務分野にも対応しているのもポイントの一つです。
個人の相談を中心に扱う方だけでなく、会社からの相談を受ける機会があるような総合的に案件を扱う街弁にとっても、かなり有益といえる内容です。
同シリーズの『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』の紹介
同シリーズには、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』もあります。
出版社がシリーズ第2弾として紹介している別書籍となります。
『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』はその題名の通り、民事弁護に特化した内容になっていて、若手弁護士にとって一番大事な民事弁護の対応について解説がされています。
本書:分野ごとの初動を確認したい方向け
『新版 若手弁護士のための初動対応の実務』
2017年12月刊/504ページ/本体3,200円+税
交通事故や離婚、相続など、複数の分野に触れられていて、経験の少ない分野の相談前に確認する使い方に向いています。
民事弁護編:事件の進め方を段階ごとに確認したい方向け
『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』
2018年6月刊/208ページ/本体2,300円+税
法律相談から訴訟、終了時の処理まで、民事弁護の分野で仕事の進め方を確認するための一冊です。
『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』には、費用の精算や預かり資料の返却、懲戒事例とその予防策に関する項目もあり、かなり実務的な内容になっていると言えます。
分野別の法律知識というより、民事弁護で事件を適切に進め、終了させるための実務に関心がある方は、こちらの書籍も使用してみるのがよいと思います。
『新版 若手弁護士のための初動対応の実務』にも民事弁護総論があるため、両書のテーマには重なる部分があります。
「必ず2冊そろえるべき」と考えるのではなく、手持ちの本や自分が何を重点的に学びたいかという視点で選ぶのがおすすめです。
『若手弁護士のための初動対応の実務』の良いところ
ここからは、『新版 若手弁護士のための初動対応の実務』の良いところをまとめていきたいと思います。
相談カードを、聴き漏れを減らすための確認に使える
本書の特徴として、事案ごとに整理された「相談カード」が挙げられます。
初動対応で確認したい内容を、相談準備の段階で見直すためのツールとして使用できるので、相談に不安のある若手弁護士にとっては役立つと思います。
例えば、相談の予約内容を確認した後、カードを参考にして、自分が聞きたいことを整理し、相談後には、そのメモと照らし合わせ、聞けたことと未確認のことを分ける。
このような使い方をすることで、自分の相談力を徐々に向上していくこともできます。
単に法律相談での確認項目を眺めるだけでなく、「確認できた事実」「まだ分からない事実」「追加で確認する資料」に分けて自分用のメモを作ると、次の相談対応に繋がる内容にできます。
もちろん、使い方は人それぞれですが、いろんな使い方ができるというのは本書のメリットになります。
言うまでもありませんが、ただ単に本書の相談カードの項目を埋めれば、どの相談でも十分というわけではありません。
相談者の目的や個別事情に合わせて確認事項を加えることを前提に、自分の準備を見直す参考として使うのがよいでしょう。
「法律相談の型」から、説明の組み立て方を考えられる
本書では、「法律相談の型」が分野別に用意されています。
これは相談の進め方をイメージするための内容として、非常に有益です。
相談準備では、「何を聞くか」と「何を説明するか」という2段階の対応が求められます。
事情を聞くための準備ができていても、相談者に、問題点や選択肢をどの順序で伝えるかは、別に整理しておく必要があります。
このような法律相談の練習の参考として、本書の「法律相談の型」に着目してみてるとかなり役に立ちます。
法律知識の習得はいろんな書籍で対応可能ですが、このような法律相談の型を学ぶなら、本書はとても適切な書籍と言えます。
慣れていない分野で、検討の出発点を作りやすい
本書に期待したいのは、経験の少ない分野の相談を前に、最初の確認事項を整理する役割です。
自分が詳しい分野について、新しい論点を探すための本として読む場合とは、評価の基準も変わります。
例えば、普段は家事事件を中心に扱っている方が、初めて労働問題の相談を受けることになった場面を考えてみてください。
最初からそれぞれの請求について知識を入れていくという方法もあるとは思いますが、相談の全体像を整理し、そのうえで必要な資料や最新の実務書を確認するというやり方の方が効率的です。
このような、相談の全体をイメージしたうえで、必要なポイントを個別で調べるというやり方にピッタリなのが本書です。
読みながら「分かったこと」を増やすだけでなく、相談や受任後のことを想定して「次に何を確認するか」を具体的に考えながら、読むことで、法律相談などの初期対応の力が向上します。
また、相談が終わった後に読み直し、「先に確認しておけばよかったこと」を自分のメモに加える使い方もありです。
初回だけで完結させず、自分の経験に合わせて確認事項を育てていくための参考にしたい一冊と言えます。
分野別の参考書籍を探すきっかけになる
本書には「分野別推薦書籍100選」が用意されています。
本書では、前述のように、知識を入れるというよりも、法律相談や受任等の初動対応の際の全体イメージを解説しているのがメインですが、それとは別に、各分野を担当する際に手元に置いておくと役立つ書籍を教えてくれています。
若手弁護士の人にとって初めての分野では、何を調べるかだけでなく、どの資料から調べるのが良いかにも迷うことがあると思います。
本書では、初動対応のみならず、その先の調査に使う資料を探すという読み方ができる点も、購入を検討する際の材料になります。
ちなみに、本サイトの中でも、若手弁護士の方々にとって役に立つ実務本を数多く紹介しているので、ぜひ他の記事も読んでみていただければ嬉しいです。
『若手弁護士のための初動対応の実務』のイマイチなところ
ここからは、『新版 若手弁護士のための初動対応の実務』のイマイチなところを挙げていきたいと思います。
法制度や手続は、別の資料で確認する必要がある
本書を、現在の法律や裁判所の手続までまとめて確認できる実務書として選ぶのであれば、期待する用途とはずれます。
本書は、あくまでも、法律相談や受任時のポイントや注意点など、初動対応をどのように実施するのかという点に目線を置いています。
なので、具体的な手続きを学ぶということは目的の範囲外になるので、 他の書籍で補完していく必要があるのはやむを得ないところです。
法律相談や受任時の解説を読んでも、それを実践するには、具体的な手続きを知っておく必要はあるので、その点は注意が必要です。
本書で相談準備の視点を整理し、具体的な法的判断や提出書類、期限、手続については公的情報や実務資料で確認する。
この使い分けを前提に検討していただきたいです。
個別分野の詳細な調査を学ぶには向かない
本書では、個別具体的な分野の知識、手続きを詳細に解説しているわけではありませんので、本書だけで法律相談や受任時の完璧な対応ができるわけではありません。
法律相談や受任のためには、その分野に関する知識などが必要なので、例えば、特定の争点について裁判例などの知識や、具体的な書面の作成方法などを調べたい場合には、その目的に合う資料を併せて確認することになります。
本書の説明が浅いというわけではなく、「相談の準備を整えること」と「個別の論点を詳しく調べること」を切り分けで行うべきであるということになります。
すでに相談の進め方が確立している方は、本書でわざわざ初動対応の基礎を学ばなくとも、分野を絞った実務書の方が、自分の課題に合う場合もあると思います。
しかし、本書の対象は、初動対応でどのように対応すればよいかまだ悩みがあるような段階の若手弁護士(あるいは新規登録弁護士)。
そのような若い弁護士のとっては、法律相談や受任時の確認事項を横断的に見直す本を持つ意義も大きいと言えます。
約500ページあるため、それなりに労力が必要
本書は504ページあり、短い時間で全体を読み切る前提の薄い手引書ではありません。
最初から最後まで一度に読むことを目標にするより、まず総論を確認し、次に自分の気になる部分へ進んで、少しずつ知識を付けていくという読み方をおすすめします。
特に、相談前に準備するために使うのであれば、その時々で対応する分野や確認したいことを決めてから読む方が効果的だと思います。
「まず相談の全体像を整理したい」「説明の順序を考えたい」「次に調べる資料を選びたい」など、その都度、読む目的を一つ決めると、本書のような読むのに労力の必要な本では効果的に使用することができます。
『若手弁護士のための初動対応の実務』はこんな人におすすめ
・弁護士志望の司法修習生
・街弁事務所に就職した人
・新規登録弁護士
・若手弁護士
・将来的に独立を考えている司法修習生・弁護士
『新版 若手弁護士のための初動対応の実務』を特にお勧めしたいのは、法律相談の前に、何を確認するかを自分で整理できるようになりたいという新規登録弁護士や若手弁護士です。
登録直後など、まだ相談の経験が少ない方であれば、事情の聴き方や説明の準備を考えるために、すでに実務経験がある方であれば、慣れていない分野の相談準備を見直すために、自分の課題と結び付けて選ぶと、読む目的がはっきりすると思います。
また、一般民事を扱う事務所への就職を予定している司法修習生の方にも、法律知識を実際の相談にどう結び付けるかを考えるために読んでいただけると将来に役立つと思います。
一方、民事弁護の相談から受任、訴訟、事件終了まで、仕事の進め方を段階ごとに確認したい方は、同シリーズの『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』も比較してみてください。
相談から受任につなげるための考え方も知りたい方には、別の記事で紹介している『弁護士10年目までの 相談受任力の高め方』も、とても参考になる書籍です。
関連記事:『弁護士10年目までの 相談受任力の高め方』の書評
『新版 若手弁護士のための初動対応の実務』は「弁護士になって間が無く、法律相談や受任についてまた不安がある」という悩みを抱えている若手弁護士や新規登録弁護士、あるいは個人事件を増やしていきたいアソシエイト弁護士の役に立つ書籍です。法律相談力や受任力を高めたいという弁護士の方は、ぜひ一度手に取ってみてください。
