どもども
ついに改正刑法が施行されましたね。
これで性犯罪が厳罰化されました。
今回の改正がどれほど効果があるのかまだ分かりませんが、性犯罪の被害が減少することを願うばかりです。
さてさて、そういうわけで、性犯罪については改正で色々と変わったところがありますが、強制わいせつ罪に関してはそこまで大きな変化はありませんでした。
※改正内容についてはこちらを参照してください。
http://blog.livedoor.jp/shah0022/archives/2782677.html
そこで今回は強制わいせつ罪について改正前から問題となっている点を取り上げたいと思います。
それは、強制わいせつ罪における性的意図の要否という論点です。
強制わいせつ罪における政敵意図の要否という論点に関しては、司法試験の合格を目指している方なら知っているとは思うのですが、この点に関しては将来判例変更があり得るのではないかと考えられているため、今回取り上げることにしました。
それではないようについて見ていきます。
◯強制わいせつ罪の構成要件
まずは強制わいせつ罪の構成要件について軽く確認します。
(強制わいせつ)
第百七十六条
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
さて、条文をあげましたがここからわかる構成要件はなんでしょうか。
まずは客体が十三歳以上の者 となっていますが、十三歳未満の者についても後段で保護の対象となっています。
両者の違いは、行為態様に「暴行又は脅迫」が必要となるか否かです。
十三歳以上の者については「暴行又は脅迫」が必要となるのに対して、十三歳未満の者については必要とされず、わいせつな行為があればアウトです。(同意があってもダメです)
次に、行為は、「暴行又は脅迫を用いること」(十三歳以上の者)と「わいせつな行為」です。
それぞれの意味は特に説明不要だと思います。
注意は「暴行又は脅迫」が必要となるのは対象が十三歳以上の者である場合に限られるということです。
条文上求められている構成要件はこれだけですね。
しかし、判例は強制わいせつ罪の成立のために、これらの要件に加えて主観的要件も要求しています。
この主観的要件が性的意図です。
つまり、判例は、強制わいせつ罪が成立するためには、暴行脅迫やわいせつ行為のみならず、それが性的欲求を満たすためになされたものでなければならないというのです。
◯判例が性的意図を求めた理由
性的意図の要否が問題になった事案について詳しく見て見ましょう。
【判例】(最決昭45.1.29)
被告人は過去のいざこざの恨みから、報復・侮辱のために被害者を脅迫し裸にさせ、裸体を写真で撮った事例
(判旨)
「刑法一七六条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し、婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であつても、これが専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪は成立しない ものというべきである。」
最高裁はこの事案において、上記のような一般論を示して、結論として、被告人による行為は 性的意図のもとに行われていないため強制わいせつ罪は不成立であるとしました。
このように、判例は強制わいせつ罪の成立には性的意図が必要であるとしているのですが、このように解する根拠はなんなのでしょうか。
そもそも、上で確認した通り、条文上は性的意図は強制わいせつ罪の構成要件として求められていません。
しかし、判例は性的意図が必要だと言っています。
これはなぜかというと、判例は強制わいせつ罪を傾向犯として考えているからなのです。
傾向犯とは、行為者の心情や内心の在り方を犯罪構成要件の 要素とする犯罪類型と説明されます。
つまり、行為者の内心や主観面に着目して、それが外的行為として表現された行為類型を傾向犯と呼ぶということです。
そのため、判例は強制わいせつ罪は傾向犯、つまり、性的な主観が外部に表現される行為類型を犯罪としたものであるから、性的な意図がなければその外的表出行為とは言えず、従って強制わいせつ罪は成立しないと考えたのです。
◯強制わいせつ罪における性的意図の要否について検討
上記のように判例は強制わいせつ罪は傾向犯であり性的意図がなければ成立しないとしているのですが、この判断は妥当なものと言えるでしょうか。
そもそも、問題の始まりは何かという、条文上性的意図は構成要件として定められていないということです。
それは上で確認した
通りなのですが、判例の言うように、強制わいせつ罪が傾向犯であり、性的意図が外部に表出されたらその行為を処罰するものだと考えるのならば、なぜ条文に「性的意図」と言う主観的要件が全く出てこないのでしょうか。
これは明らかに不自然だと思いませんか。
判例がいうことが正しいなら、条文上はっきりと性的意図を要求するべきであるにもかかわらず、なぜか条文には出てこないのです。
それなのに、性的意図を強制わいせつ罪の書かれざる構成要件として考えるのは、条文解釈として無理があるのではないでしょうか。
また、実質的な理由として、そもそも強制わいせつ罪の保護法益が何だったかというと、個人の性的自由であるところ、わいせつ行為という客観的行為があればそれだけで性的自由は侵害されたということができる、ということが挙げられます。
つまり、性的自由の侵害はわいせつ行為だけで発生するのであり、加害者が性的欲求を満たす目的であったかどうかは全く関係ないのです。
逆に言えば、加害者が性的意図を持たずにわいせつ行為をした場合、被害者の性的自由は侵害されてないと言えるでしょうか。
そんなわけないですよね。
従って、最高裁のような性的意図を必要とする立場は妥当ではないと思われます。
学説上もこのように考えて、強制わいせつ罪の成立に性的意図は必要ないとする見解も有力に唱えられています。
また、近年、下級審レベルではありますが不要説に立つものが現れています。
昨今の性犯罪に対する世論や刑法が改正により厳罰化されたという状況も踏まえると、今後、最高裁が立場を変えて、判例変更することも十分ありうることだと思います。
今後の動向を見ましょう。
今回は刑法改正ということもあって、性犯罪のうちの一つ、強制わいせつ罪の重要論点について解説して見ました。
改正後も論点として残るものですのでしっかりと確認しましょう。
それでは今日はこんなところで失礼します。