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こんにちは
今回は刑事訴訟法の重要論点の一つ、「逮捕に伴う捜索差押え」について解説したいと思います。
逮捕に伴う捜索差押えが無令状でも許容される根拠とその解釈について書いていきます。
ぜひ最後までご覧ください。
Contents
逮捕に伴う無令状捜索差押えが許容される根拠
【刑事訴訟法第220条第1項】
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第百九十九条の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左の処分をすることができる。第二百十条の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。
一 人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすること。
二 逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること。
さて、このように、刑事訴訟法上、逮捕に伴う捜索は無令状で行うことができることとなっています。
しかし、そもそも、捜索は被疑者に対するプライバシー侵害の程度が大きい強制処分であるため、令状主義の要請から、令状がなければ捜索できないということとなっています。
それでは、なぜ逮捕に伴って行われる捜索・差押では令状主義が妥当せず、無令状で行うことができるのでしょうか。
無令状捜索差押えの根拠について、2つの見解が対立しています。
○相当説:逮捕の現場においては証拠物の存在する蓋然性が高いから、無令状でも許容される
○緊急処分説:逮捕の現場においては証拠物の存在する蓋然性が高いことを前提にして、そのような証拠物が被疑者によって隠滅・破壊されることを防止する緊急の必要性のために認められる
まず、相当説について詳述します。
そもそも捜索について憲法35条は「正当な理由」があることを求めているところ、「正当な理由」とは(1)特定の被疑事実についての嫌疑の存在(2)捜索の必要性(3)証拠物の存在する蓋然性、を言います。
そして、逮捕する場合は(1)嫌疑の存在は当然あり、(2)捜索の必要性も通常あるものと考えられます。
そうすると、問題となるのは(3)証拠物の存在の蓋然性、だけということになります。
そのため、逮捕の現場においては、証拠物の存在の蓋然性が高いということを理由として、裁判所の審査を経ることなく、無令状で捜索することができるという理解になるのです。
差押えに関しても基本的に同様に考えられます。
一方、緊急処分説は、令状主義の重要性を重視して、逮捕に伴う捜索差押えは、令状主義を求める憲法35条の例外と捉えます。
そうすると、原則である令状主義の例外であるのだから、その解釈は厳格にしなければならない、つまり、逮捕に伴う捜索差押えが許容されるのは例外的なものなので限定的であると考えるのです。
そのため、逮捕に伴う捜索差押えが許容されるのは、裁判官による令状の発布を受ける余裕のない緊急の場合であるとするのです。
そこで、刑訴法220条は、証拠物が被疑者によって隠滅・破壊されることを防止する緊急の必要性があることを理由として無令状の捜索差押えを例外的に許容しているという解釈となるのです。
「逮捕する場合」の解釈
さて、上記の通り、無令状での捜索差押が認められる理由については相当説と緊急処分説の対立があるのですが、逮捕に伴う無令状捜索差押えの根拠についての対立が条文上の要件の解釈についても影響します。
そこで、ここから逮捕に伴う捜索差押えの要件についての解釈を示していきたいと思います。
まずは、無令状での捜索差押が許容される場面は「逮捕する場合において」であるという点についてです。
「逮捕する場合」という文言は、逮捕に伴う捜索差押の時的限界を示しています。
つまり、どれくらいの時間的幅であれば逮捕に「伴う」捜索差押であると言えるのか、という問題です。
具体的にいうと、逮捕の前であっても許されるか、非逮捕者が現在している必要があるのか、という点が問題となります。
さて、無令状での捜索差押が許容される時的限界については、相当説と緊急処分説ではその範囲が異なることとなります。
まず、相当説によると、そもそも無令状での捜索差押が許容される理由は、証拠物存在の蓋然性の高さにあるところ、被疑者の逮捕の前であっても証拠物が存在する蓋然性は高いということが言えます。
なので、相当説からは逮捕の前後を問わないということとなります。
もっとも、「逮捕する場合」という文言上、逮捕行為とのある程度の密接性が必要となるでしょう。
例えば、極端な例ですが、逮捕する予定が翌日なのに捜索差押えをするのは許されないでしょう。
また、被逮捕者が現在している必要があるか否かという点については、後述のとおり判例は現在していなくてもいいとしましたが、現在していないのであればいつ逮捕できるのかは不確定で偶然的事情に左右されてしまうため「逮捕する場合」とは言えないと解するべきです。
なので、被疑者は現在している必要があると解するのが妥当でしょう。
次に、緊急処分説による解釈では、そもそも無令状捜索差押えの根拠は証拠保全の緊急の必要性があるからでした。
そうすると、逮捕と時間的にかなり近い状態でないと証拠保全の緊急の必要性はないと考えられるため、逮捕との時間的接着性が厳格に求められるのです。
そのため、緊急処分説によると基本的には逮捕前の捜索差押は認められず、例外的に時間的にかなり接着している場合に証拠保全の緊急の必要性がある場合には逮捕前であっても認められると解することとなるでしょう。
また、当然ですが、被疑者が現在していないのに、「逮捕する場合」に証拠が隠匿・破壊される危険性は認められないと解されるため、被疑者が現在していない場合には無令状での捜索差押は許されません。
「逮捕の現場」の解釈
次に、逮捕に伴う捜索差押えはあくまで「逮捕の現場」でなされる必要があります。
「逮捕の現場」という文言によって捜索の場所的範囲を限界づけています。
それでは「逮捕の現場」とはどう解釈されるのでしょうか。
この点についても、相当説と緊急処分説からだと結論が異なります。
まず、相当説によると、逮捕に伴う捜索差押えが無令状でいい根拠は、逮捕の現場は証拠物の存在の蓋然性が高いため、司法審査を受ける必要がないとされたからでした。
つまり、逮捕の際には、逮捕の現場では通常の捜索差押えにおける要件は通常満たされているから、わざわざ司法審査を受けなくともいいということです。
そうすると、通常の捜索差押えと違うのは無令状であるという点のみです。
そのため、捜索の範囲ついては通常の捜索と同様に考えればいいのです。
したがって、令状を受けて行う捜索差押えの範囲が同一管理権の及ぶ範囲であるため、逮捕に伴う捜索の場合も同様に、同一管理権の及ぶ範囲であれば捜索差押えをすることができるという解釈になります。
一方で、緊急処分説によると、逮捕に伴う捜索差押えは、証拠物の隠匿・破壊防止の緊急の必要性から例外的に無令状でいいとされているのでした。
そうすると、例外的なものとして、原則である令状による捜索よりも厳格に解釈する必要が出てくるのです。
そのため、無令状でいいとされる根拠に基づいて、証拠物の隠匿・破壊防止の必要性がなければならないということになります。
したがって、緊急処分説によると、「逮捕の現場」とは、証拠物の隠匿・破壊の恐れがある範囲ということになります。
具体的には、手が届く範囲とか、支配下にある範囲とか言われますが、つまりは、被逮捕者によって証拠の隠滅や破壊が可能であるか否かを考えればいいのです。
判例の立場
さて、以上の通り、逮捕に伴う捜索差押えについての2つの見解、およびそこから導かれる、「逮捕する場合」と「逮捕の現場」の解釈について示してきました。
それでは、最後に判例がどのような立場であるのかを確認したいと思います。
【最判昭36.6.7刑集15.6.915】
(判旨)
「憲法三五条は、同三三条の場合には令状によることなくして捜索、押収をすることができるものとしているところ、いわゆる緊急逮捕を認めた刑訴二一〇条の規定が右憲法三三条の趣旨に反しないことは、当裁判所の判例(昭和二六年(あ)第三九五三号、同三〇年一二月一四日大法廷判決、刑集九巻一三号二七六〇頁)とするところである。同三五条が右の如く捜索、押収につき令状主義の例外を認めているのは、この場合には、令状によることなくその逮捕に関連して必要な捜索、押収等の強制処分を行なうことを認めても、人権の保障上格別の弊害もなく、且つ、捜査上の便益にも適なうことが考慮されたによるものと解されるのであつて、刑訴二二〇条が被疑者を緊急逮捕する場合において必要があるときは、逮捕の現場で捜索、差押等をすることができるものとし、且つ、これらの処分をするには令状を必要としない旨を規定するのは、緊急逮捕の場合について憲法三五条の趣旨を具体的に明確化したものに外ならない。
もつとも、右刑訴の規定について解明を要するのは、「逮捕する場合において」と「逮捕の現場で」の意義であるが、前者は、単なる時点よりも幅のある逮捕する際をいうのであり、後者は、場所的同一性を意味するにとどまるものと解するを相当とし、なお、前者の場合は、逮捕との時間的接着を必要とするけれども、逮捕着手時の前後関係は、これを問わないものと解すべきであつて、このことは、同条一項一号の規定の趣旨からも窺うことができるのである。従つて、例えば、緊急逮捕のため被疑者方に赴いたところ、被疑者がたまたま他出不在であつても、帰宅次第緊急逮捕する態勢の下に捜索、差押がなされ、且つ、これと時間的に接着して逮捕がなされる限り、その捜索、差押は、なお、緊急逮捕する場合その現場でなされたとするのを妨げるものではない。」
判例はこのように、「逮捕する場合において」の解釈については、「単なる時点よりも幅のある逮捕する際をいう」として、さらに「逮捕との時間的接着を必要とするけれども、逮捕着手時の前後関係は、これを問わない」としているため、どちらかというと相当説的な考え方であると考えられます。
そして「逮捕の現場」の解釈については、「場所的同一性を意味するにとどまる」として、比較的緩めに考えているため、これも相当説に親和性のある解釈だと思います。
したがって、判例はどちらかというと相当説を採用しているものと考えるのが妥当だとは思いますが、判例自身が明言しているわけではありませんし、相当説とも少しずれるのではないかという部分もあるため、とりあえずは相当説として考えるのではなく、緩やかな解釈をしているという程度の認識でいるのが無難だと思われます。
まとめ
以上の通り、逮捕に伴う無令状捜索差押えにおいては、その趣旨で対立があり、その対立が要件の解釈ににつながるのです。
なので、まずは、逮捕に伴う捜索差押が無令状で許容される根拠について理解を深めましょう。
そうすれば自然と逮捕に伴う無令状捜索差押えの論点について理解できると思います。
今回は長くなりましたが、逮捕に伴う捜索差押について書いていきました。
何か疑問等あればぜひコメントください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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