刑事訴訟法

一般人が犯罪者を現行犯逮捕することはできるのか〜私人逮捕の根拠〜

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さて、突然ですが、こんなケースを想像してください。

あなたは家の近くの商店街を歩いています。

すると「キャーーー!!ひったくりーー!!誰か捕まえてーーー!!」という大きな叫び声が聞こえてきました。

声のする方を見ると、女性が転んでいて、女性もののカバンを持った男が女性の方からあなたに向かってすごい勢いで走ってきました。

さて、こんな時、あなたはどういう行動をとりますか。

①知らんぷりする

②逃げる

③男を捕まえる

④男が逃げるのを助ける

どうでしょう?

まさか④を選んだ人はいませんよね?(笑)

正義感の強い人であれば③男を捕まえる、という選択をするのではないでしょうか。

しかし、これは許されるのでしょうか。

もちろん感覚的には許されるべきだと思いますよね。

問題は、法的に許されているのか否かという点です。

今日はこのような、一般人が犯罪者と思われる者を逮捕する、いわゆる、常人逮捕について書いていきたいと思います。

by カエレバ

 

 

Contents

①一般人でも逮捕できる?

まずは、逮捕についてイメージしてもらいましょう。

普通、逮捕といえばどういう場面をイメージしますか?

おそらく、警察官が犯罪者の手に手錠をかけて、「3時45分、現行犯で逮捕する。」と時計を確認しながら言うようなシーンを思い浮かべるのではないでしょうか。

もちろん、これは正しいイメージです。

多くはこのようにして逮捕されます。

いわゆる現行犯逮捕
と言いますね。

現行犯逮捕の他にも通常逮捕と緊急逮捕というものもあります。

さて、一般人が犯罪者を見つけて近くに警察官がいない場合、一般人は犯罪者をみすみす見逃さなければならないのでしょうか。

警察に通報していては間に合わないため、このような場合には一般人による逮捕を認めるべきですよね。

そこで、刑事訴訟法という法律がこのような場合に一般人が逮捕することを認めているのです。

 【刑事訴訟法第213条】

   現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。

このように、「何人でも」逮捕できるという文言であるため、逮捕は一般人であろうと警察官であろうと行うことができるのです。

 

②逮捕罪は成立する??

さて、上記の通り、法律上、一般人も警察と同じように現行犯逮捕することができるということが分かりました。

これで皆さんも気兼ねなく現行犯逮捕することができますね。

しかし、ちょっと待ってください。

実は逮捕に関して刑法に条文があるのです。

  【刑法第220条】

    不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。

あれ??

刑事訴訟法では逮捕できるとなっていたのに、刑法によると逮捕すると罪になるらしいですね。

これは大変です。

刑事訴訟法と刑法が矛盾しているではありませんか!!

そうなんです。

実は、刑法上、逮捕罪が定められています。

なので、他人を逮捕すると罪に問われうるのです。

そこで、刑事訴訟法で許されているのに、刑法上許されないという両者の関係をどう捉えるべきであるのかという話になるのです。

結論から言えば、犯罪者を現行犯逮捕しても、一般人が罪に問われることはありません。

おそらく、皆さん、刑法の逮捕罪の規定を読んで、「不当に」って書かれているのだから、不当社なければいいんでしょ、というように考えたのではないでしょうか。

このように考えた人は非常に法律のセンスがありますね。

そうなのです。

実は、刑法には「不当に」逮捕すると罪になると書かれているので、不当でなければ罪にわならないこととなります。

そして、不当な逮捕か否かという点ですが、法律上、刑法220条の「不当に」とは、つまり、違法性があることとされるのです。

つまり、違法性のある逮捕がダメなのです。

そして、刑法35条を見ると

  【刑法第35条】


    法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

と書かれています。

この規定は、法令に基づいた行為は違法性が無くなるということを言っているのです。

そして、一般人による現行犯逮捕は、先ほどの刑事訴訟法第213条に基づく行為になります。

なので、一般人による現行犯逮捕は法律に基づく行為と言え、従って、違法性が無くなる、つまり、不当な逮捕には当たらないため適法ということになるのです。

 

③やりすぎはダメ!!

上記の通り、一般人による現行犯逮捕は適法となるのですが、それにも限界はあります。

まず、逮捕の方法として、例えば、殴る蹴るとかの暴行は絶対にダメです。

これをやってしまうと、暴行罪や傷害罪になりかねません。

絶対にやめましょう。

また、犯人と思える者が全然抵抗していないのに、上に乗りかかったり羽交い締めにしたりといった過剰な逮捕行為をすると、さすがにやりすぎとして不当な逮捕となってしまう恐れがあります。

相手の態度等に合わせて、必要最小限の逮捕行為に抑えるようにしましょう。

次に、現行犯逮捕する場合でも、犯罪者であると明確に言える場合でなければなりません。

そもそも、現行犯逮捕が認められるのは極めて例外だと思ってください。

本来なら、逮捕するには逮捕状をもらって警察が逮捕することになるのです。

しかし、現行犯人がいるという緊急事態であることを考えて、例外的に現行犯逮捕が認められたのです。

なので、犯人であることが明確であって、罪を犯したと疑うに足りる合理的な理由がなければ、現行犯逮捕することはできません。

原稿犯人であると疑う根拠が何も無いのに逮捕してしまうと、「不当に」逮捕したということで逮捕罪に該当してしまいますので注意してください。

 

④まとめ

以上の通り、一般人が現行犯逮捕することも可能です。

簡単に流れをまとめますと以下のように考えるのです。

一般人が逮捕行為をする

  ⬇︎

刑法220条の「不当に」逮捕することになるか。

  ⬇︎

「不当」とは違法性の有無

  ⬇︎

刑法35条で法令に基づく正当行為は違法性無し

  ⬇︎

一般人による現行犯逮捕は刑事訴訟法213条に基づく

  ⬇︎

法令に基づく正当行為として違法性無くなる

  ⬇︎

違法性が無いため「不当」とは言えない

  ⬇︎

本件逮捕行為は適法

 

このような流れで、一般人による現行犯逮捕、いわゆる、常人逮捕は適法なものとして許されるのです。

もしも、冒頭に示したような場面に遭遇したら、ここで書いたことを思い出してください。

最後までご覧くださりありがとうございました。

今日はこの辺りで失礼します。

それではまた。