刑事訴訟法

【刑事訴訟法】おとり捜査の重要判例・裁判例まとめ

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おとり捜査の重要判例をまとめておきます。

それぞれ重要度ランクをつけておきましたので参考にしてください。

⬇︎おとり捜査の解説はこちら⬇︎
【刑事訴訟法】重要論点解説 おとり捜査の合法性〜二分説と判例〜

【最決平16年7月12日刑集58巻5号333頁】百選10

重要度:★★★★

(判旨)

         主    文

       本件上告を棄却する。当審における未決勾留日数中240日を第1審判決の懲役刑に算入する。

         理    由

(上告趣意に対する判断)  弁護人高橋正俊の上告趣意第1は,本件大麻樹脂の取引は麻薬取締官やその意を 受けた捜査協力者から被告人に対し執ように働き掛けてきたもので,被告人は大麻 樹脂の取引にかかわりたくないと考えていたものの,捜査協力者から大麻樹脂が用 意できなければ自分の立場が危ないと懇請され,同人の頼みを断り切れずに大麻樹 脂を調達したものであって,かかるおとり捜査は憲法13条及び31条に違反する 旨主張するが,原判決の認定に沿わない事実関係を前提とするものであるから,所 論は前提を欠き,その余の上告趣意は,単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

(職権判断)  なお,所論にかんがみ,本件おとり捜査の適否について職権で判断する。  1 原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件の捜査 経過は,次のとおりである。  (1) 被告人は,我が国であへんの営利目的輸入や大麻の営利目的所持等の罪に より懲役6年等に処せられた前科のあるイラン・イスラム共和国人で,上記刑につ き大阪刑務所で服役後,退去強制手続によりイランに帰国し,平成11年12月3 0日偽造パスポートを用いて我が国に不法入国した。  (2) 上記捜査協力者(以下,単に「捜査協力者」という。)は,大阪刑務所で 服役中に被告人と知り合った者であるが,自分の弟が被告人の依頼に基づき大麻樹脂を運搬したことによりタイ国内で検挙されて服役するところとなったことから, 被告人に恨みを抱くようになり,平成11年中に2回にわたり,近畿地区麻薬取締 官事務所に対し,被告人が日本に薬物を持ち込んだ際は逮捕するよう求めた。   (3) 被告人は,平成12年2月26日ころ,捜査協力者に対し,大麻樹脂の買 手を紹介してくれるよう電話で依頼したところ,捜査協力者は,大阪であれば紹介 できると答えた。被告人の上記電話があるまで,捜査協力者から被告人に対しては ,大麻樹脂の取引に関する働き掛けはなかった。捜査協力者は,同月28日,近畿 地区麻薬取締官事務所に対し,上記電話の内容を連絡した。同事務所では,捜査協 力者の情報によっても,被告人の住居や立ち回り先,大麻樹脂の隠匿場所等を把握 することができず,他の捜査手法によって証拠を収集し,被告人を検挙することが 困難であったことから,おとり捜査を行うことを決めた。同月29日,同事務所の 麻薬取締官と捜査協力者とで打合せを行い,翌3月1日にA駅付近のホテルで捜査 協力者が被告人に対し麻薬取締官を買手として紹介することを決め,同ホテルの一 室を予約し,捜査協力者から被告人に対し同ホテルに来て買手に会うよう連絡した。  (4) 同年3月1日,麻薬取締官は,上記ホテルの一室で捜査協力者から紹介さ れた被告人に対し,何が売買できるかを尋ねたところ,被告人は,今日は持参して いないが,東京に来れば大麻樹脂を売ることができると答えた。麻薬取締官は,自 分が東京に出向くことは断り,被告人の方で大阪に持って来れば大麻樹脂2kgを買 い受ける意向を示した。そこで,被告人がいったん東京に戻って翌日に大麻樹脂を 上記室内に持参し,改めて取引を行うことになった。その際,麻薬取締官は,東京・ 大阪間の交通費の負担を申し出たが,被告人は,ビジネスであるから自分の負担で 東京から持参すると答えた。  (5) 同月2日,被告人は,東京から大麻樹脂約2kgを運び役に持たせて上記室 内にこれを運び入れたところ,あらかじめ捜索差押許可状の発付を受けていた麻薬取締官の捜索を受け,現行犯逮捕された。  2 以上の事実関係によれば,本件において,いわゆるおとり捜査の手法が採ら れたことが明らかである。おとり捜査は,捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力 者が,その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働き掛け,相手方が これに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙するものであるが ,【要旨1】少なくとも,直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において,通常 の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に,機会があれば犯罪を行う 意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うことは,刑訴法197条1項に 基づく任意捜査として許容されるものと解すべきである。
【要旨2】これを本件についてみると,上記のとおり,麻薬取締官において,捜査協力者からの情報によっても,被告人の住居や大麻樹脂の隠匿場所等を把握する ことができず,他の捜査手法によって証拠を収集し,被告人を検挙することが困難 な状況にあり,一方,被告人は既に大麻樹脂の有償譲渡を企図して買手を求めてい たのであるから,麻薬取締官が,取引の場所を準備し,被告人に対し大麻樹脂2kg を買い受ける意向を示し,被告人が取引の場に大麻樹脂を持参するよう仕向けたと しても,おとり捜査として適法というべきである。したがって,本件の捜査を通じ て収集された大麻樹脂を始めとする各証拠の証拠能力を肯定した原判断は,正当と して是認できる。  よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21 条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官 泉 徳治 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 島 田仁郎 裁判官 才口千晴)



【最決昭28年3月5日刑集7巻3号482頁】

重要度:★

(判旨)

 所論第一点、第二点は、原判決が弁護人のいわゆる囮捜査の抗弁につきなした「被告人Aは囮であるCに初めて犯行を誘発せしめられたものであるということはできない。」との事実判断は、重大な事実の誤認であり、証拠に基かない事実認定であり、採証法則に反するというに帰し、同第五点、第六点は、量刑不当の主張であつて、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、原判決の右事実判断は、論旨第二点で主張するような推測又は予断に基いたものではなく、結局第一審第四回公判調書中の証人Dの供述記載によつたものであることその説示に照し明白であり、且つ、これによれば原審の右事実判断を肯認できるから、所論のごとき誤認又は訴訟法違反も認められない。また、所論第三点、第四点は、右のごとき単なる訴訟法違反又は事実誤認を前提とする違憲の主張であつて、右のごとくその前提を欠くものであるから、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、他人の誘惑により犯意を生じ又はこれを強化された者が犯罪を実行した場合に、わが刑事法上その誘惑者が場合によつては麻薬取締法五三条のごとき規定の有無にかかわらず教唆犯又は従犯として責を負うことのあるのは格別、その他人である誘惑者が一私人でなく、捜査機関であるとの一事を以てその犯罪実行者の犯罪構成要件該当性又は責任性若しくは違法性を阻却し又は公訴提起の手続規定に違反し若しくは公訴権を消滅せしめるものとすることのできないこと多言を要しないそれ故、本件では刑訴四一一条を適用すべきものとも思われない。

  

【最判昭29年11月5日刑集8巻11号1715頁】

重要度:★

(判旨)

 いわゆる囮捜査は、これによつて犯意を誘発された者の犯罪構成要件該当性、責

任性若しくは違法性を阻却するものでないことは、既に、当裁判所の判例とすると

ころである。(昭和二七年(あ)第五四七〇号同二八年三月五日第一小法廷決定)。

とすれば、本件被告人の麻薬所持の行為をもつて、いわゆる囮捜査にもとづくもの

であるが故に犯罪行為としての反社会的危険性を欠くものとして、被告人に対し無

罪を言渡した第一審判決を維持した原判決は法令の解釈を誤り、前示当裁判所の判

例に違反するものと云わなければならない。論旨は結局理由あり、原判決及び第一

審判決は破棄を免れないものである。

 

【東京高判昭57年10月15日判時1095号155頁】

重要度:★

(判旨)

 そこで検討すると、本件覚せい剤所持事件の捜査の経過は前記認定のとおりであり、所論のように被告人がいわゆるおとり捜査により検挙されたことは否定し難い災、《証拠略》によると、被告人はAに対し以前にも四、五回、本件直前にはその一か月前に一回、本件の場合と同様の方法で一〇グラム単位の覚せい剤の取引(被告人からAへの有償の譲り渡し)をしていたことが認められるのであり、以前から覚せい剤を密売のため所持することを反覆的、継続的に行なっていたと推認され、今回の場合もAの譲り受けの申し込みは、覚せい剤所持の犯意のなかった者にその犯意を誘発させたというのではなくかねてからよい客があれば覚せい剤を売ろうとして 持の犯意を有していた者に、その現実化及び対外的行動動化の機会を与えたに過ぎないというべきである。

 また前認定のような捜査方法の当否については、覚せい剤の弊害が大きく、その密売ルートの検挙の必要性が高いのに、検挙は通常「物」が存在しないと困難である実情にも鑑みると、立川署の捜査員が取調ベ中のAの自発的申し出に基き、Aの供述の裏づけをとる 方で、Aとつながる密売ルートの相手方の検挙の端緒を得ようとしたことは当該状況下においては捜査上必要な措置であったと認められ、これが公訴提起手続を無効にするほど、適正手続等の条項に違反した、違法ないしは著しく不当な捜査方法であったとは認められない。

 よって原判決が刑訴法三三八条四号を適用して、本件公訴を棄却しなかったのは相当であって、この点の論旨は理由がない。

【東京高判昭62年12月16日判タ667号269頁】

重要度:★

(判旨)

 そこで、原審記録及び証拠物を調査して検討すると、被告人らが検挙されるに至つた事情は、原判決が弁護人らの主張に対する判断の一で認定しているとおりであり、その検挙に至る過程においておとり捜査がなされたことは否定することができない。しかし、原判決が説示しているように、被告人は、昭和五八年一〇月ころから、捜査機関の関係者と接触したりするうち、覚せい剤を日本で密売しようと企てるに至つたものであり、当初の覚せい剤取引の話が流れた後も、原審相被告人B(以下単にBという)らとの間で覚せい剤取引の交渉を何度もくり返したうえ、本件犯行に至つたものであつて、その間捜査関係者らと接触したことにより覚せい剤取引に関する 意が持続、強化された面はあるにしても、捜査関係者によつて犯意を誘発、惹起されたものとは決して認められない。この点をさらに補足して説明すると、本件覚せい剤取引の犯行は、以前からの経過はさておき、直接的には、原判決が前記判断の一の1(四)で認定しているように、昭和五九年一二月二〇日ころ被告人、BおよびXの三名が新宿のホテルで話し合つたことから始まつたものであるが、その際捜査機関の協力者であるXが、何回も話が流れてしまつて社長に対し面子がないよなどと言つたことは原判示のとおりである。しかし、右Xの言葉は、それまでの経過からして極く自然の発言とみられ、それが被告人やBに対する覚せい剤取引の強要に当るものということはできない。Bは原審の公判において、右の話し合いの際、Xと被告人の両名から、どうしても必ずやるように責められたと供述しているのであるが、Bの原審における供述は、自己の立場を受動的、消極的なものとして述べようとの態度が顕著にみられるものであり、被告人の原審における供述とも対比し、にわかに信用することができない。そして、関係各証拠により認められる昭和五九年四月以降の被告人とBとの覚せい剤取引に関する行動状況、すなわち、右両名とも、日本に多量の覚せい剤を持込み、これを密売して多額の利益を得ようとし、日本と韓国あるいは台湾との間を再三往来していたことなどからすれば、前記一二月二〇日ころの話し合いの席において、Bは自己の任意の意思により昭和六〇年一月中に覚せい剤を日本に持込むことにし、被告人もBの企てに加担することにしたものと認めるのが相当である。また、その後、前記X及び原判示の「社長」らが、捜査機関と連絡をとりながら、Bや被告人らと種々折衝を重ねたうえ、覚せい剤一〇キログラムを買取ることにし、「見せ金」である現金をも持参して売手側に見せ、結局原判示の覚せい剤所持の犯行に至らせた点についても、原判示のとおり、覚せい剤所持の犯意を新たに誘発させたものではなく、従前からその犯意を有していた者にその現実化、行動化の機会を与えたにすぎないものというべきであり、本件事案の特殊性、重大性、特殊性をも考慮すれば、右のおとり捜査は、捜査として許される限度を越えた違法なものとはいえず、著しく不当であるともいえないとみるのが相当である。従つて、本件のおとり捜査が違法、不当なものであることを前提にし、原判決が違法収集証拠によつて事実認定をしたものであるとの所論は、前提を欠き失当であるというほかなく、原審の訴訟手続に所論のような法令違反はないから、論旨は理由がない。

 

刑事訴訟法

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