【重要度】★★★★☆
刑事訴訟法の重要論点の一つとして、おとり捜査の合法性があります。
おとり捜査の合法性については二分説という学説と判例の整理が非常に大事になります。
なので、今回はおとり捜査の論点について判例や学説をまとめておきたいと思います。
今回書く内容だけ理解できていれば、基礎的な部分については十分でしょう。
必要最小限度の説明でなるべくわかりやすくまとめます。
刑事訴訟法が苦手な人や初学者でおとり捜査に興味を持った人には是非読んでいただきたいです。
また、最後におとり捜査が論文問題で出てきた時にどう書くべきか、論証パターンを示しておきたいと思います。
是非最後まで読んでください。
ー参考文献ー
古江頼隆『事例演習刑事訴訟法 第2版』(2015)147-158頁
川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕(2016)196-207頁
おとり捜査とは?
判例によると、おとり捜査の定義は
おとり捜査は,捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が,その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働き掛け,相手方が これに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙するもの
です。
つまり、警察等が被疑者が犯罪をするように働きかけて、犯罪行為を行ったらその人を逮捕するという捜査手法です。
このような手法に対しては、警察等の捜査機関は本来犯罪を取り締まるべき存在なのに、その捜査機関によって犯罪が作られることになるから、おとり捜査は認められるべきではない、という批判があると思います。
確かに、おとり捜査はわざわざ犯罪行為をさせてから、実際にやった場合には逮捕するという、かなり卑怯な方法であるとも思われますよね。
しかし、学説や判例はこのようなおとり捜査も認められる場合があっていいと考えています。
注意していただきたいのは、おとり捜査が絶対的に許容されるということでも、どんな場合でも認められないということでもないということです。
あくまで、おとり捜査が合法であるか違法であるかの判断基準について議論がなされているのです。
機会提供型と犯意誘発型
それでは、上記のような批判を踏まえた上で、学説上はおとり捜査の合法性をどのように考えているのでしょうか。
学説上、二分説という考え方があります。
二分説は、下記のようにおとり捜査を⑴機会提供型と⑵犯意誘発型に分けて考えます。
⑴機会提供型:すでに犯罪を起こす気がある者に対して、その犯罪行為の機会を提供するにとどまるもの
⑵犯意誘発型:犯罪行為を起こす気がないものに、積極的に働きかけて、犯罪行為をする気を起こさせるもの
そして、学説上のおとり捜査の合法性の判断は、⑴機会提供型は合法であるのに対して、⑵犯意誘発型は違法であるとします。
つまり、すでに犯意がある者ならその機会を提供したに過ぎないのだから、捜査機関が犯罪を作り出すという批判は当たらない、一方で、犯意がない者にそのやる気を起こさせるのは上記の批判がそのまま当てはまり許されるべきではない、と考えるのです。
このように、おとり捜査を⑴機会提供型と⑵犯意誘発型の二つに区別した上で、それぞれ合法、違法になるというように、形式的に合法性を判断するのが二分説という学説です。
おとり捜査の判例