刑法

【刑法】正当防衛と武器対等の原則の関係について〜防衛行為としての相当性に絡めて〜

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【重要度】★★☆☆☆

こんにちは

正当防衛の事案では素手対武器という構造になることがしばしばあります。

 

しかし、相手が素手で襲ってきているのに対してこちらは武器を利用して防衛行為をしてもいいのでしょうか。

 

相手が素手ならこちらも素手で、ナイフならナイフで対抗する、というのが「正当」な防衛ではないでしょうか。

 

このような観点から武器対等の原則というものがしばしば利用?されたりします。

 

では、武器対等の原則は正当防衛の成立にどのように影響するのでしょうか。

 

今回は武器台頭の原則の意義について考えてみたいと思います。

なお、武器対等の原則は正当防衛の要件のうち「やむを得ずにした行為」=「防衛行為の相当性」に関わるものです。

【刑法】正当防衛の成立要件と判例まとめ』で正当防衛の要件についてまとめていますので、ぜひ確認してみてください。

 

Contents

武器対等の原則の定義

武器対等の原則とは、相手方の武器と自分の武器が対等であるならば正当防衛になる、という考え方です。

なので、武器対等の原則に従って判断すると

【事例1】
Aが殴りかかってきたので、甲は自分の身を守るためにAを殴って対抗した

 

【事例2】
Aが殴りかかってきたので、甲は自分の身を守るためにナイフでAに対抗した

 

事例1では素手対素手という関係なので正当防衛が成立
事例2では素手対ナイフという関係なので正当防衛は不成立
となります。

 

このように武器対等の原則を厳密に使うと、侵害行為者と防衛行為者の使用している武器が対等であるかどうかによって正当防衛の相当性があるか否かの結論が分かれる、ということになるのです。

 

武器対等の原則の問題点

上記の通り、武器対等の原則を厳格に使うと武器の優劣がそのまま正当防衛の成否の判断になります。

 

しかしそれはやりすぎではないでしょうか。

 

事例1の事案を少し変えて考えます。
【事例1改】
Aが殴りかかってきたので、甲は自分の身を守るためにAを殴って対抗した
なお、Aは80歳近く、身長約160cm、特に運動歴はない
甲は25歳、身長約190cm、ボクシングを5年ほどやっている

 

この場合、普通に殴り合ってしまうとAの方が圧倒的に不利で普通に殴って防衛するとAに重大な被害が生じてしまう恐れが高いと言えます。

 

では、事例2を少し変えてみます
【事例2改】
Aが殴りかかってきたので、甲は自分の身を守るためにナイフでAに対抗した
なお、Aは25歳、身長約190cm、ボクシングを5年ほどやっている
甲は80歳近く、身長約160cm、特に運動歴はない

 

この場合は、普通に殴り合ってしまうとこ甲はやられてしまうため、何か武器を使わなければ防衛行為が成功することはないでしょう。

 

以上のように、
事例1改では、素手対素手という関係なのに正当防衛が不成立
事例2改では、素手対ナイフという関係なのに正当防衛は成立
という結論の方が妥当であると考えられます。

 

このように、武器対等の原則を厳格に使ってしまうと不合理な結論を導いてしまうことがありうるのです。

 

武器対等の原則に関する判例

武器対等の原則を考える上で有益なものが以下の判例です。
【最判平成元年.11.13刑集43.19.823】
「年齢も若く体力にも優れたAから、「お前、殴られたいのか。」と言って手拳を前に突き出し、足を蹴り上げる動作を示されながら近づかれ、さらに後ずさりするのを追いかけられて目前に迫られたため、その接近を防ぎ、同人からの危害を免れるため、やむなく本件菜切包丁を手に取ったうえ腰のあたりに構え、「切られたいんか。」などと言ったというものであって、Aからの危害を避けるための防御的な行動に終始していたものであるから、その行為をもって防衛手段としての相当性の範囲を超えたものということはできない。」

 

この判例では、素手対包丁という関係であったにもかかわらず、
相手方が年齢も若く体力にも優れていた
危害を免れるため、やむなく本件菜切包丁を手に取った
危害を避けるための防御的な行動に終始していた
という要素を考慮した上で防衛手段としての相当性の範囲を超えたものということはできないと判断したのです。

 

武器対等の原則を厳格に適用すると素手対包丁なので防衛行為としての相当性を欠き正当防衛は不成立となるはず。

 

しかし、この判例では武器対等の原則を厳格に適用する立場を明らかに否定したというわけです。

 

武器対等の原則の位置付けは?

 

以上の検討や判例の立場を前提にすると、武器対等の原則はあくまで防衛行為の相当性の要件の考慮要素の一つに過ぎないということになるでしょう。

 

武器対等の原則=相当性の判断とはならないわけです。

 

武器が対等であっても相当性が欠けることはあるし、武器が不対等であっても相当性が認められることはあるのです。

 

「相当性」の考慮要素の中の位置付けは?

 

では、武器対等の原則は相当性の考慮要素の中ではどれくらい影響度が高いものなのでしょうか。

 

もしも武器対等の原則が重要な考慮要素なら、武器対等=原則相当性アリ、という図式になります。

 

この点に関しては、基本的には武器対等の原則も他の考慮要素と重要度は変わらないと考えておいて問題はないでしょう。

 

確かに、武器の差があればそれだけ攻撃力も差がでるわけですが、体格や運動歴などでも同様に攻撃力の差は生じるものと思われます。

 

なので、武器対等の原則も考慮要素としては重要ではありますが、他の考慮要素と総合した上で防衛行為としての相当性の判断をするのが良いかと思います。

 

まとめ

 

以上の通り、武器対等の原則=相当性という判断をしてしまうのは妥当ではないし、判例条を明確に否定されています。

 

あくまで、防衛行為としての相当性判断の考慮要素の一つと考えるべきです。

 

そして、考慮要素の中での立ち位置としてもそれほど過剰に重視するべきではなく、
年齢や体格などの他の考慮要素も総合的に考慮しながら防衛行為として相当性が認められるかを判断するべきです。

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