刑法

【刑法】正当防衛の成立要件と判例まとめ


(この記事はプロモーションを含みます。)

今回は、司法試験でも学部の試験でも頻出な正当防衛の成立要件について書いていきます。

なるべく分かりやすくまとめていきますので、ぜひ最後までご覧ください。

 



 

 

Contents

正当防衛の成立要件

まずは、正当防衛の基礎的な知識として、正当防衛が成立するためにはどんな要件が必要なのかという点についてです。

条文を確認しましょう 

刑法第36条
1.急迫不正の侵害に対して、自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2.防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を軽減し、または免除することができる。

ここから正当防衛の成立要件は

1.急迫不正の侵害(侵害の急迫生・不正性)
2.防衛のため(防衛の意思)
3.自己または他人の権利
4.やむを得ずにした行為(相当性)

となっていることがわかります。

それぞれの成立要件について記述していきます。

急迫不正の侵害(侵害の急迫性・不正性)

まずは(1急迫不正の侵害についてです。

ここには、急迫性
  不正性 という二つの要素が含まれているので、まずはその点について確認しましょう

では、不正性からです。

不正とはどういうことかというと、自分に対する侵害行為は、刑法上違法である必要があるのだということです。
例えば、すっごく極端な例でいうと、どこかの怖いお兄さんがあなたをいくら睨んできても、それは法律上違法でもなんでもない行為なので、どれだけあなたがそれを怖いとか不快だと感じたところで、それに対して防衛として犯罪行為をしても正当防衛にはならないということです。

司法試験などでよく出てくるのは、
Aさんの犬があなたに向かって襲ってきたというケースで、この場合犬の行為は刑法上違法であるとはいえないので、その犬をケガさせたりすると器物損壊罪が成立してしまう恐れがあるのです。(対物防衛)

 ※このような事例では、緊急避難37条が成立したり、Aさんの管理が甘いという過失行為は違法なのでそれに対する正当防衛が成立する可能性はあります。
⬇︎対物防衛についてはこちらに書いています⬇︎
【刑法】重要論点解説 対物防衛の処理の方法について

次に、急迫性についてです

急迫性とは、判例によると、「法益の侵害が現に存在しているか、または間近に押し迫っていること」をいいます。(最判昭
461116刑集25.8.996

つまり、すでに自分に危害が与えられている、あるいは、危害が加わりそうな場合には急迫性が認められるのです。

例えば、監禁されているとか、殴られそうになるとかです。

急迫性の判断は基本的に、時間的場所的にどれくらい密接しているのかという点から考えます。

例えば、
1年後に殴られそうだから今防衛行為に出ようとかは、時間的間隔がありすぎるので、侵害が間近に押し迫っているとはいえません。

なので、急迫性が認められるには、ある程度時間的場所的に近いことが求められるのです。

急迫性が問題となる一番のケースは、侵害行為が行われそうだと分かっているのにあえてそれに向かって行った場合です。

具体例を出すと、
Aさんがあなたをボコボコにしようとしているという情報を知っているのに、あなたがあえてAさんに侵害行為をさせて、それに対して防衛行為を行った場合です。

この場合、
Aさんがあなたを殴ることがわかっていたのであれば、あなたはその侵害行為を避けることができたので、侵害が急迫しているとはいえないのではないかということが問題となるのです。

この点について、判例(最判昭
52721刑集31.4.747)は「当然又はほとんど確実に侵害が予期されたとしても、そのことからただちに侵害の急迫性が失われるわけではない」と判断しています。

もっとも、侵害の急迫性の趣旨から考えて、「単に予期された侵害を避けなかったというにとどまらず、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、もはや侵害の急迫性の要件を満たさない」と述べています。

つまり、ただ単に侵害行為がなされると予想、予期していただけなら、急迫性の要件を欠くことにはなりません。

しかし、侵害行為を予期していたことに加えて、それに乗じて相手に危害を加えてやろうという意思があったのなら、もはや急迫性があったとはいえないと判断しているのです。

まとめると、このようなケースで急迫性がないとされるのは、

侵害行為を予期している 
➕ 積極的に加害行為をする意思を有している

という場合だということです。

※この論点については新しい判例が出て少し変更がありますので⬇︎こちらの記事⬇︎で確認してください。
【刑法】正当防衛の急迫不正の侵害とは〜急迫性と積極的加害意思について〜

この論点は司法試験や法律試験では必須の知識になるので必ず覚えておきましょう

侵害行為を予期していて、さらに、積極的加害意思があると急迫性が否定されるのです。

防衛のため(防衛の意思)

つぎに(2防衛の意思についてです

衛の意思については、学説上は必要説と不要説があります。

もっとも、判例必要説で固まっているため、試験でも必要説の立場から考えていけばいいでしょう。

一応論証の際には、理由付けとして
36条が「ために」という文言を使っていることから防衛の意思の要件が必要であるとすれば良いと思います。

実際上の理由としては、防衛の意思を不要としてしまうと偶然防衛の事例で妥当な解決が図れなくなってしまうということが言えます。

偶然防衛とは、相手が自分に侵害行為をしようとしているということに気付かずに、たまたま行った行為が防衛行為となったようなケースです。

例えば、
AさんはBさんを銃で撃ったところ、BさんがAさんを撃とうとしていたのに気付いていなかった、という場合です。

A
さんはBさんに狙われていることに気付かずに銃を撃つことで、偶然防衛行為になってしまいました。

このような場合に、防衛の意思が不要であると解すると正当防衛が成立してしまいます。

でも、
Aさんは別に防衛しようと思ったわけではなくBさんを銃で撃とうとしたのに、たまたま状況的に正当防衛だったからといってお咎めなしというのは妥当ではないでしょう。

ということで、判例・通説は正当防衛の成立要件として防衛の意思が必要としているのです。

さて、それでは防衛の意思の内容ですが、防衛の意思とは「侵害行為を認識した上で、単にこれを避けようとする心理状況」だと定義されます。

つまり、「危ないから避けようとしたんだ」という意思さえあれば「防衛の意思」があると認められます。

そして、「防衛の意思」さえあれば憎悪や怒り、攻撃の意思など他の感情があってもいいというのが判例です。

判例は以下のように判断しています。

「憤激または逆上して反撃を加えたからといって、ただちに防衛の意思を欠くものと解すべきではない」
(最判昭46.11.16刑集25.8.996)

 もっとも、このような状況を超えて、侵害行為に乗じて積極的に相手を加害する意思がある場合には、もはや緊急状態からくる防衛行為とは言えないので、「防衛の意思」が否定されるというのが判例です。

積極的加害意思については、急迫性のところでも問題となりましたね。

積極的加害意思があると急迫性が欠けるのか防衛の意思が欠けるのか、どちらなのかというのはあまりはっきりしていません。

でも、説明としては、侵害行為以前から積極的加害意思を有していたのか、侵害行為がされる段階で積極的加害意思を持つに至ったのか、という時間的な区別をすることができると考えられるので、試験ではこのように区別すればいいと思われます。

自己または他人の権利

3自己または他人の権利については、論文問題で特に問題となることはあまりありません。

国家的法益に対する侵害についても適用されるのかという点が争いになっていたことはありますが、判例はこのような法益でも正当防衛を認めると判断したので、もはやこの点については争いはありません。

あらゆる法益が正当防衛の保護の対象になると思っておけば足りるでしょう

やむを得ずにした行為(相当性)

正当防衛の成立要件の最後は(4相当性の要件についてです。

相当性は36条の「やむを得ずにした行為」という文言のことを指します。

つまり、「やむを得ずにした行為」と言えるか否かは防衛行為に相当性が認められるか否かという点から判断されるのです。

判例によると、相当性とは、「反撃行為が事故または他人の権利を防衛するための手段として必要最小限度のものであること、すなわち反撃行為が侵害に対する防衛手段として相当性を有することを意味する」としています。

さらに、相当性が認められる以上、「反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとした法益よりも大であっても、その反撃行為が正当防衛行為でなくなるものではない」としています。

つまり判例上は、防衛行為が必要最小限度であれば相当性が認められ、防衛により侵害した法益と防衛による保護法益の均衡性は求められていないということです。

もっとも、法益の均衡性については絶対的ではないものの、相当性判断の考慮要素にはなります

必要最小限度の判断は事例の具体的事情によります。

主には、①体格差年齢差武器が対等か行為態様法益の均衡他の防衛手段の有無
といった要素から総合的に判断していきます。

このような要素を考慮して判断した上で必要最小限度と認められれば、正当防衛の成立要件の相当性「やむを得ずにした行為」があるということになります

逆に、もしも必要最小限度を超えている、したがって、相当性を欠くと判断された場合は、
362項によって過剰防衛となり刑の減免となる可能性があります。

試験では相当性判断のあてはめがとても重要になりますので、上記の考慮要素をしっかりと頭に入れて、詳細なあてはめができるように気を付けましょう。

以上、正当防衛の成立要件と判例など基本的な知識について説明していきました。

最後までご覧いただきありがとうございました。

アガルートアカデミー
 

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