刑法

【刑法】事後強盗罪の成立要件と主要論点まとめ

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こんにちは

今回は、司法試験や予備試験でもよく出題されることの多い「事後強盗罪」について、成立要件や主要論点の解説をまとめていきたいと思います。

司法試験や予備試験では財産犯が頻出テーマであるところ、事後強盗罪はそれと絡めやすいので出題されることもしばしばあります。

なので、簡単にではありますが、事後強盗罪の成立要件等をまとめておきますので、ぜひ参考にしていただければ嬉しいです。

 

Contents

事後強盗罪の成立要件

まずは事後強盗罪の条文を確認してみます。

(事後強盗)
第二百三十八条 窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。
この条文からは以下の要件が導き出されます。
①窃盗
②財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために(目的)
③暴行又は脅迫
さらに、判例学説上において、上記の要件の他に④窃盗の機会性という要件も求められています。
(これは独立の要件ではなく①や③の要件の中に入れて議論することもできるとは思いますが、一応ここでは④の要件として書いていきます)

事後強盗罪が成立すると「強盗として論ずる」ことになるので、強盗罪と同様に扱うこととなります。

それでは、各要件について軽く説明をしていきます。

要件① 窃盗

上記の条文を読めば分かる通り、「窃盗が」となっている以上、事後強盗罪の主体は窃盗犯である必要があります。

 

ここで問題となるのが、「窃盗」には窃盗既遂のみならず「窃盗未遂」も含むのかという点です。
これについては、判例上「窃盗」には「窃盗未遂」も含むということで確立しています。

 

そもそも事後強盗罪は窃盗が逮捕を免れるなどの目的のために暴行に及ぶことが多い点から設けられているところ、窃盗が未遂に終わった場合でも上記目的のために暴行にでることは多いので、窃盗未遂も含むべきです。

 

なので、「窃盗」には窃盗既遂のみならず「窃盗未遂」も含むというのが妥当だと思います。

 

この論点に関しては、それほど激しい争いがあるわけでもありませんし、試験では軽く触れる程度でも十分かと思われます。

なお窃盗罪の成立要件や論点について下記の記事で解説をしているのでぜひご覧ください。
関連記事:【刑法】窃盗罪の成立要件と保護法益論〜占有説と本権説の対立と判例〜

要件② 財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために(目的)

目的要件

 

事後強盗罪においては、一定の目的が要件として課されています

 

①財物を取り返されることを防ぐ
②逮捕を免れる
③罪証隠滅

 

のいずれかの目的が必要となります。

 

なお、これらの目的で暴行・脅迫がなされることが要求されているのみなので、上記の目的が達成されたか否かは事後強盗罪の成立において全く関係ありません

 

例えば、窃盗犯が自分を逮捕しようと追ってきた者を逮捕を免れるために暴行したが結局逮捕された場合、事後強盗罪は成立することになるわけです。

居直り強盗と事後強盗罪の区別

 

目的要件との関係でよく試験で問題になるのが、居直り強盗との区別、というものです。

 

居直り強盗とは、一度財物を奪取した後で、さらに財物を奪取するために暴行・脅迫を行うような行為です。

 

このように、居直り強盗と事後強盗は、財物奪取の後でさらに暴行・脅迫を行う点で類似性を有するので、両者をいかなる基準により区別するのかが問題となるのです。

 

そもそも強盗罪では暴行・脅迫が要件とされています。

 

そして強盗罪における暴行・脅迫は財物奪取に向けられたものである必要があります。

 

つまり、普通強盗罪においては財物を奪取する手段として暴行・脅迫が用いられることになります。
しかし、事後強盗罪においてはすでに財物を取った後で暴行・脅迫を行うことになります。

 

なので、事後強盗では、普通の強盗罪のように財物奪取の手段として暴行・脅迫をすることはなく、むしろ取り返されることなどを防ぐために暴行・脅迫をすることになるわけです。

 

というわけで、居直り強盗の場合は「財物奪取のために」暴行・脅迫をするのに対して、事後強盗は上記①〜③のために暴行・脅迫をするのです。

 

つまり、居直り強盗と事後強盗罪の区別は、暴行・脅迫の「目的」によって区別されることになります。

 

試験では「〇〇のために暴行をした」というように目的が分かりやすく示されていることが多いので、上記のような基準で区別することさえ分かっていれば、居直り強盗と事後強盗の区別で迷うことはありません。

 

居直り強盗と事後強盗罪の区別、まとめ 
居直り強盗=財物奪取のために暴行・脅迫を行う
事後強盗罪=財物を取り返されることを防ぐ or 逮捕を免れる or 罪証隠滅のために暴行・脅迫を行う

 

要件③ 暴行又は脅迫

 

事後強盗罪においても普通の強盗罪と同様に「暴行又は脅迫」が要件とされています。

 

事後強盗罪における暴行・脅迫の程度も普通の強盗罪と同じように「反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫」である必要があります。

 

事後強盗罪も「強盗として論ずる」とされている以上、両者の均衡の観点から、強盗罪と同じように、「反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫」を必要とするべきであるということからそうなっているわけです。

 

なので、試験で事後強盗罪が問題となった場合は、体格差、犯行時刻、犯行場所の状況、行為の態様、被侵害法益などを踏まえて、反抗を抑圧するものといえるかどうかをしっかり検討しなければなりません。

 

要件④ 窃盗の機会性

 

窃盗の機会性

事後強盗罪の要件として、条文上明らかな上記3要件の他に、暴行・脅迫が「窃盗の機会」になされることが要求されます。

 

これは、強盗罪においては、財物奪取のために暴行・脅迫を行うというように、暴行・脅迫と財物奪取が一連のものとして結びついています。

 

それに対して、事後強盗罪では窃盗の後に暴行・脅迫がなされるので、両者の間に時間的な隔たりがあるばいいもあるなど、普通の強盗罪ほど窃盗罪との結びつきが強くありません。

 

しかし、事後強盗罪も「強盗として論ずる」以上は、普通の強盗罪と同じほどの窃盗罪と暴行脅迫との関連性を要求するべきです。

 

ということで、事後強盗罪においては、暴行・脅迫が窃盗の機会になされることによって両者の結びつきがあることが求められるということになるのです。

窃盗の機会の判断基準

 

次に

窃盗の機会の判断基準

についてです。

 

判例によると窃盗の機会性の判断基準は「被害者等から容易に発見され,財物を取り返され,逮捕されうる状況」(最決平14・2・14)が継続していたかどうかです。

 

そして、そのための考慮要素が、①時間的場所的近接性 ②被害者等による追求の有無です。

 

例えば、窃盗の現場から数分後100mしか離れてなくしかも被害者に追われていた場合、①時間的場所的に近接していますし、②被害者等による追求もあるので、問題なく「窃盗の機会」と言えます。

 

でも、窃盗から数時間後に10キロ離れた場所でのんびりしていたという場合は、①時間的場所的に近接していないし②被害者等による追求も全くないので、「被害者等から容易に発見され,財物を取り返され,逮捕されうる状況」ではないため、「窃盗の機会」ではないということになります。

 

なお、窃盗の機会が否定された場合は、窃盗罪(未遂罪)及び暴行罪等が成立することになります。

 

事後強盗罪の既遂・未遂の区別

 

事後強盗罪の既遂・未遂の区別については「窃盗の既遂・未遂」によって区別するということとされています。

 

なので、窃盗未遂犯が逮捕を免れるなどのために暴行・脅迫をした場合は事後強盗未遂罪が、窃盗既遂犯が逮捕を免れるなどのために暴行・脅迫をした場合は事後強盗既遂罪が成立することになります。

 

これは、強盗罪においては最終的に窃盗が達成された場合に既遂が成立することになるため、事後強盗罪においてもそれと同様に窃盗罪の既遂・未遂によって区別することになるということです。

 

また、事後強盗罪は財産犯的側面と生命身体侵害犯的側面があるところ、第一義的には前者であると解されているので、財産犯たる窃盗罪による区別の方が妥当であると考えられるという理由もありえます。

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