書評(憲法)

【書評】『精読憲法判例[人権編]』〜判決全文で深く学習できるおすすめ憲法判例集〜

(この記事はプロモーションを含みます。)

今回は憲法の判例集精読憲法判例[人権編]について、その特徴や評価をまとめていきたいと思います。

後述しますが、『精読憲法判例[人権編]』は学習者のサポートとなる工夫がたくさんなされているため、司法試験や予備試験対策の憲法判例集として非常におすすめできます。

特に、憲法判例の理解が足りていないと感じている学習者にはぴったりだと思いますので、ぜひ本書評を参考にしてみてください。

なお、過去の書評一覧は⬇︎こちら⬇︎にまとめていますので、ご覧ください。
【書評一覧】法律本の書評を総まとめ〜基本書・参考書・問題集・予備校本など〜



Contents

『精読憲法判例[人権編]』 弘文堂

今回紹介するのは、弘文堂から出版されている憲法の判例集、精読憲法判例[人権編]です!!

『精読憲法判例[人権編]』の特徴

『精読憲法判例[人権編]』はその題名の通り、憲法人権分野の判例を「精読」するのに向いている判例集です。

憲法の判例集といえば、憲法判例百選あるいは判例プラクティスあたりが定番だとは思いますが、『精読憲法判例[人権編]』はそれらの判例集とは異なる特徴を有しています。

まず、『精読憲法判例』の一番の特徴は何と言っても判旨全文が掲載されている点でしょう。

判例集としてはかなり珍しく、一つ一つの判例の判旨がすべて乗っています。

また、判旨全文だけでなく、補足意見や反対意見なども全文載っているので、例えばパブリックフォーラム論で有名な伊藤正己補足意見も全文記載されています。

『精読憲法判例』は、まさに、憲法の判例を「精読」するのにぴったりな判例集というわけです。

そのほかにも、学習者のサポートとなる工夫(ナビゲーター・判決の論理構造・各段落ごとの解説など)が凝らしてあるため、判例学習の教材としてはかなり使いやすいです。

掲載判例数は合計73判例と少なめになっていますし、基本的人権分野の重要判例のみをピックアップして収録しているため、基本的人権の判例のうち一部のものや統治機構分野の判例は掲載されていません

そのため、狭く深く判例学習するための判例集だと評価できます。

憲法は司法試験でも予備試験でも、判例の理解が強く求められる科目でもありますので、本書のような重要判例を中心に全文掲載している判例集は試験対策としてもかなり有益だと思います。

本書の構成としては、各人権(表現の自由や財産権など)ごとに章が分かれていて、いくつかの重要判例がピックアップされて掲載されています。

各章につき、最初に学説の状況や判例の展開が2ページほどに整理して記載され、その後に各判例の掲載という流れになっています。

それぞれの判例につき、事案の概要 ➡︎ ナビゲーター ➡︎ 判決の論理構造 ➡︎ 判旨&解説 ➡︎ 少数意見・補足意見・反対意見など ➡︎ 補足説明 ➡︎ Questions ➡︎ 関連判例や論文の紹介、という流れで進んでいきます。

Questionsでは、判例の内容について簡単な質問が用意されていて(だいたい20~40個くらい)、復習や確認あるいは自習用のためのものという感じです。

『精読憲法判例』は使用方法にも幅がありそうですし、掲載されている判例も重要なものばかりなので、憲法初学者〜上級者まで全ての方にお勧めできます。

最終的に司法試験の合格を目指している方であれば、とりあえず憲法の判例集として本書を選択しても良いと思います。

『憲法判例百選』との差別化

憲法の判例集の最も定番のものはやはり憲法判例百選だと思いますが、精読憲法判例[人権編]はどのような違いがあるのかという点について、簡単にまとめておきます。

まず、両者が大きく異なる点として、判旨の引用量が挙げられます。

『憲法判例百選』では、判旨の一部が引用されているだけなので、一部の判例を除いて基本的には判旨の全容を把握するのは難しくなっています。

それに対して、『精読憲法判例』判旨の全文(+意見等)が掲載されているため、判旨の全てを把握することができる作りとなっています。

次に、判例の解説にも違いがあります。

『憲法判例百選』では、各判例につき2ページほどの解説が記載されていて、学説の状況だったり歴史的な変遷だったり、判例に関連する事項を解説の中で学習できます。

『精読憲法判例』は一応判旨とともに解説がついているのですが、大部分は判旨のまとめや要約にとどまっています。
むしろ、各人権の章立ての最初に記載されている部分が、判例百選の解説に当たるような内容となっているので、判例の解説というよりも人権ごとの解説という扱いになっています。

そのほかには、『憲法判例百選』解説のみが記載されているのに対して、『精読憲法判例』図解や表で判旨の流れをまとめている、という違いもあります。

また、収録判例数としては、『憲法判例百選』は1と2で合計215判例が収録されているのに対して、『精読憲法判例』では73判例の収録にとどまっています。

以上のような違いを踏まえてまとめると、それぞれの判例集のポイントは下記のようになると思われます。

『憲法判例百選』➡︎コンパクト・掲載判例多い・学者の解説付き
短時間で多くの判例に触れたい、学者の解説をメインで読みたいという人は『憲法判例百選』の方が使いやすい

『精読憲法判例』➡︎全文+意見が掲載・図解や表付き・重要判例が中心
判例を一つ一つ深く読み込んだり、補足意見や反対意見まで学習したいという人は『精読憲法判例[人権編]』の方がおすすめ

精読憲法判例[人権編]の良いところ

判旨全文や意見(補足意見・反対意見等)を踏まえて判例を深く学習できる

『精読憲法判例』の一番の特徴は、判旨が全文記載されていることと補足意見や反対意見まで載っていることでしょう。
前述もしましたが、『憲法判例百選』や『判例プラクティス』など定番の判例集は、事案の概要・判旨の一部・解説、という構造になっていまして、判旨の要点のみをピックアップして引用する形になっています。
なので、判旨の一部のみが記載されている場合がほとんどなのです。
それに対して、『精読憲法判例』では、判旨の全文のみならず補足意見や反対意見なども載っているため、憲法の教材の中でも非常に深く判例学習できるものと評価できます。
特に、司法試験でも予備試験でも、憲法は判例の結論だけでなく論理構造まで深く理解する必要のある科目ですので、本書は判例を読み込むのに適した教材として非常に有益です。

判例の論理構造が視覚的に理解できる図や表が記載されている

『精読憲法判例』が判例学習に向いている点として、判決の論理構造を図や表で整理してくれていることが挙げられます。
判例がどの論点でどのような結論を示したのかが一目でわかるため、一度目を通した後で判旨を読み進めると判例を非常に理解しやすくなります。
「判決の論理構造」の部分だけを読むことで短時間で判例の内容を復習するという使い方も出来たりしますし、判例集として使用方法の幅が広いのが良い点の一つです。

判旨の手前のナビゲーターで当該判例のポイントが把握できる

『精読憲法判例』では、判旨の前に必ず「ナビゲーター(Navigator)」という項目がありまして、これは判決文を読む上での注目ポイントだったり、争点がどこにあるのかだったり、学習のサポートになる記載となっています。
判旨を読み進める前に、上記の「判決の論理構造」と併せて「ナビゲーター(Navigator)」にも目を通すことで、判例の理解の助けとなります。

判旨を段落ごとに逐一解説している

『精読憲法判例』は上記のような点に加えて、さらに判旨部分で段落ごとに解説を記載していまして、これも学習者にとってはかなり便利なポイントです。
解説といってもがっつりしたものではなく、例えば長い判旨のポイントをまとめていたり、長い規範の要素を整理している程度ではあります。
しかし、この解説のおかげで、判旨のポイントを把握しやすくなるため、学習者にはかなり便利です。
また、判例を元に論文答案を作成したり論証を作成する際には、本書の解説部分を利用すれば比較衡量時の考慮要素だったりあてはめのポイントだったりを上手くまとめることができます

精読憲法判例[人権編]のイマイチなところ

収録判例数が限定されている(73判例)

『精読憲法判例』は各判例の全文や補足意見などを記載しているので、内容量的にはかなりボリューミーでありながら、収録判例は基本的人権の重要判例73個にとどまります
『憲法判例百選』はIとIIを合わせて200を超える数が収録されていますし、『判例プラクティス』も百選と同じくらい判例が載っています。
本書はそれらに比べると、かなり収録判例数が少ない点がデメリットとして挙げられます。
なので、数多くの判例を知りたい場合は『百選』や『判例プラクティス』を使用する、少数の重要判例を深く学習したい場合は『精読憲法判例』を使用する、という区別が良いと思われます。

統治機構分野の判例は学習できない

『精読憲法判例』は題名でも記載されている通り、「人権編」なので統治機構分野の判例は収録されていません
なので、司法試験や予備試験の短答試験対策や予備試験の論文試験対策としては、本書のみでは不十分です。
一方で、司法試験や予備試験での基本的人権についての論文試験対策としてなら、判決全文と反対意見が収録されている本書は主張反論形式の答案を考える上では参考になるので、とてもオススメできます。

完読するのはかなり苦痛

判決全文や補足意見・反対意見等に加えて、判旨の解説や各人権分野ごとの学説や判例のまとめなど、すべて合わせて600ページを超える分量となっていますので、本書の全部を読み込むのは相当苦労すると思います。
それだけに憲法判例の力はすごく身につくと思うのですが、限られた勉強時間を考えるとメリハリをつけた学習が必要となるでしょう。

持ち運びに不便

『精読憲法判例』はページ数も多くサイズもかなり大きいので、持ち運びにはかなり不便です。
持ち歩く用の判例教材としてはあまり向いていなくて、むしろ家や自習室など同じ場所で腰を据えてじっくり勉強するものとして使用するのが良いでしょう。
カバンに入れて持ち歩くとすごく肩が痛くなるので注意してください

<精読憲法判例[人権編]はこんな人にオススメ

・憲法の判例を深く学習したい人
・『憲法判例百選』以外の判例集を探している人
・憲法要判例の判旨全文を読みたい人
・司法試験受験生、予備試験受験生、法科大学院生

なお、過去の書評一覧は⬇︎こちら⬇︎にまとめていますので、ご覧ください。
【書評一覧】法律本の書評を総まとめ〜基本書・参考書・問題集・予備校本など〜

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